恋は甘いが、現実はちょっぴり苦い。
アメリカに渡ってダンテとの恋にのぼせただったが、そう時を置かずに両親から「戻って来なさい」と強く言われてしまった。
『大学をちゃんと卒業してからなら、自由にしていいから』──その言葉は頭ごなしに叱られるよりもしっかりと、の足を地に着かせた。
"休みごとに会えるから"
一時のこととは言え、ふたりは離れることになってしまった。
現在ダンテとのその距離は、海を隔てておよそ9000キロメートル。





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「高ぇ……」
パソコン画面に行儀よく整列した数字を一瞥し、ダンテは机にぐしゃりと突っ伏した。
「飛行機代って、こんな高ぇのか?」
「うん、高い。日本と行き来してたら、マイレージがあっという間に貯まるよ」
パソコンを提供しているが、ダンテの横に椅子を寄せて座る。
「あ、でもこれなら早期割引が使えるかな」
がかちかちとマウスをタップダンスさせると、確かにモニターの中の値段は多少は下がった。
けれどダンテはぶんぶん首を振る。
「30日後の予約だろ?そんなに待てない」
「ならば金に糸目を付けるな」
背後からバージルの呆れた声がかかる。その手にはアイスレモネード。
「お、気が利くね」
ご丁寧にレモンのスライスが添えられたグラスをバージルは、
「ありがとう、バージル」
に渡す。
目前を素通りした涼しげな飲み物を、ダンテは物欲しげに見送った。
「この家は客人へのもてなしが足りねぇよな」
「茶を出せば出したで、気味悪がって毒入りやら疑うだろうが」
「ダンテさんには後でコーヒー淹れるから!それよりもまずはチケットでしょ?」
の一言に、ダンテも口を噤んでパソコンに顔を向けた。
そうだった、軽口を叩いている暇はないのだった。
「にしても、何でこんなにページ重いんだ?」
開かないホームページに苛立ちクリックし続けた結果、何個も同じウインドウが並んでいる。
「4日はもう予約いっぱいかよ」
一つずつ閉じていきながら、ダンテはむすっと唇を突き出した。
「独立記念日だもんね。旅行する人が多いんじゃない?」
「祝日だからって右に倣えで出掛けなくてもいいのにな」
「じゃあ、がクリスマスに会いたいって言ってもダンテさんは会ってあげないの?」
「会うに決まってんだろ」
「……」
「今回はどっちにしても4日は無理か」
ダンテは厳しい表情で予約カレンダーを睨んだ。
「5日は何の割引もなしか」
高ぇな、とダンテは再び唸った。
「稼いで来い」
バージルが冷ややかな声を注ぐ。
「それしかねぇか」
ぐっと両手を頭の後ろで組んで伸びたダンテを見て、はバージルにきっと向き直った。
「あんまり危険なこと唆したらだめだよ」
『危険なこと』とはつまり、悪魔退治やその他の尋常ならざる内容の依頼のこと。
も今ではバージルが何処から大金を持ち帰って来るのか知っている。
もダンテが『普通』ではないことなら一応、彼やから説明を受けて知っている。が、のように二人の頑丈さを実際に目で見て確かめたわけではない。
『ダンテが悪魔っていうのは分かったような分からないような複雑な感じだけど、とにかく危険なことはしないようにもちゃんと見張っててね』
とは、の伝言である。
もちろんだって、いくら二人が頑丈であろうとも、要請が来て出掛ける度に服が破れたり得体の知れない液体を付着させて帰って来るような仕事は、できれば避けてほしいのだ。
だから今回も、ダンテが切実にお金を欲しがっているのは理解した上で、避けられる仕事なら避けてもらいたい。
そうなると、頼みの綱は。
「バージル」
「何だ」
「……」
じぃっと目で訴える。
しばしの見つめ合いと沈黙の後、バージルは深々と息を吐き出した。
財布から紙幣を景気良く抜き、ダンテに押しつける。
に感謝しろよ」
「Thanks!」
ぱちんとウインクしたダンテに、はうっかりちょっとときめいた。





滑り込みでチケットを確保した5日。バージルから借りた(奪ったとも言う)スーツケースを転がし、ダンテは意気揚々と空港に到着した。
を見送って以来ここに来るのは久しぶり、そもそも自分が利用するのは初めてだ。
「出国は……あっちか」
実際に自分が利用客になってみると、この空港は意外と広い。面倒臭いがしっかり表示を見て行動しないと、あっという間に迷ってしまうだろう。
は見送ってくれると言ってくれたのだが、それは何やら照れくさかったので丁重に断った。
「さてと」
手配したチケットをポケットから取り出し、出発ゲートや時刻を確認する。ダンテには珍しく、そういった細かい情報はもうとっくに頭に刻み込まれているのだが、それでも何か間違ってはいけないと、何度も何度も便のコード名に目を走らせる。
それから頭上の電光掲示板と照らし合わせようとし……ダンテの目は信じられない文字を捉えた。
「遅延!?」
ボードに書かれたDelayの文字。その無慈悲な単語に、ダンテは思いっきり不機嫌に眉を寄せた。
彼の周りの旅行客も口々に不平を漏らして、空港スタッフが説明に右往左往している。
耳をそばだてて聞こえた内容は、
「ハリケーン?」
小型のハリケーンJulieがこの付近を通過予定だという。
「困ったお嬢さんだな、おい……」
身勝手だとは分かっていても、せめてオレの飛行機が発ってから遊びに来てくれよと『Julie』に文句も言いたくなってしまう。
「さて、どうする」
どかりとスーツケースに腰を下ろし、重く息をつく。
ロビーに設置されているテレビは、全て天気ニュースのチャンネルに合わせられている。
情報によれば、ハリケーンは当初進むと見られていたコースをやや変えたために、この地域を掠めることになってしまったようだ。このままでは空港閉鎖とまでは行かないまでも、便そのものがキャンセルになってしまうだろう。
「気まぐれも程々にしてくれよ……」
ダンテは髪をぐしゃりとかきまぜた。
自分の行動を妨げるものは何であろうと腹立たしい。道を塞ぐのが悪魔だったら話は簡単、容赦はしない。だが天候ばかりは、さすがのダンテにもどうにもならない。
「参ったな」
ざわつく周囲からは、「払い戻し」の声が聞こえた。
「払い戻し……」
ダンテとしては金よりも、一刻も早く日本に向けて出国する手段が欲しいのだが。
「ヘイ!」
客に揉まれながらカウンターへ戻ろうとしていた職員を呼び止める。彼はすっかり疲弊した顔でダンテを振り返った。
「申し訳ございませんがまだフライトの目処は立っておらず、チケットの払い戻しをですね」
「それは分かってるよ」
決められたスクリプトを実行するばかりとなっているスタッフには同情するが、こちらもやはり切羽詰まっているのだ。
ダンテはチケットをぺらぺら振って見せる。
「払い戻しより、次の便の振り替えがいいんだ。出来るだけ早いやつの」
「それも窓口でお手続き願います」
それだけ言うと、職員は別の客に捕まってしまった。
「やっぱ駄目か」
ダンテは溜め息をついて、チケットを懐に仕舞い込む。
「素直に窓口に行くしかねぇか……」
既に行列が出来ているカウンターをうんざり見つめ、腰を上げる。
と、尻ポケットに無造作に突っ込んでいた携帯が鳴り出した。
「もしもし?」
『あ、ダンテさん。ニュース見たよ、飛行機ストップしてるんでしょ?』
か」
ダンテはちょっとホッとして、しっかりと電話を持ち直した。
「次の便がいつになるかも分からねぇみたいで、往生してる」
『そうみたいだね。週間予報は大丈夫だったのに……』
「でもこいつ、小型なんだろ?」
『うん。ニュース見る限り、そんなに足止めされなくて済みそうだけど』
「そうか!」
ダンテはぱっと顔を輝かせた。
一週間も足止めを食らうなどという羽目にはならずに済みそうだ。
『だけど、運行再開がいつになるか分からないのは変わらないよね。一度こっちに戻って来たらどうかな。チケットの払い戻しはしてるんでしょ?』
「あー。そうなんだけどさ……」
『どうかしたの?』
ダンテは目の前の窓口の長蛇の列と、空港外のタクシー待ちの混雑を見比べた。どちらに並ぶのも一苦労だろう。
それならば。
「面倒くせぇから、ずっとここにいるよ」
『えぇっ!?』
「再開したらすぐ乗りたいしな」
『……そうだね。私からに連絡しておこうか?』
の申し出に、ダンテは首を横に振った。
「いや、それもいいよ。オレが電話入れる」
『分かった。じゃあ、気をつけてね』
「サンキュ」
通話を終えると、ダンテはとりあえず窓口に向けてスーツケースを引きずった。



「ダンテさん、ずっと空港にいるって」
受話器を置くと、はバージルを振り返った。
ソファに座って天気ニュースを見ていたバージルは、傍から見ても分かるようにやれやれと肩で息をつく。
「まあ、そうだろうな」
隣に腰を下ろすと、はぽーっと中空を見た。
いつ再開されるかもわからない運航状況、不便でしかない空港でひたすら待つ……
、愛されてるね……」
ひたすらうっとりしているに、バージルはもう一度溜め息をついた。
(大して待たされることがないのだったら……いや、待たされたとしても)
「俺が奴でもそうする」
「え」
つい洩れてしまった呟きに、が視線を上げた。
彼女の視線を振り切るように、バージルは素早く席を立つ。足早にリビングを横切り、二階へ上がる。
「……。待って、バージル」
こみ上げてくる嬉しさに口元を緩ませながら、も後を追い掛けた。





今日、ダンテが日本に来る。
電話でそう話してからというもの、はずっと浮かれっぱなしだ。
離れている間もずっとずっと考えることと言えばダンテのことばかりで、これではいけないと思いつつも勉強がまるで手に付かなかった。
誰から見ても「今、恋してるでしょ?」と丸分かりの状態。
今朝も「空港へ着くまでに事故に遭わないでね」と母に何度も何度も釘を刺されてしまった。
それでも心が浮き立つのは、自分ではもうどうしようもない。
ダンテの存在は他に埋められるものが見つからないくらい、のこころを大きく占領している。



母の訓戒の効果か、は無事に空港に到着した。
一ヶ月ほど前に来たばかりの場所でも、何だか妙に懐かしい。
相も変わらず満員御礼のロビーの中、ふとの目を引くものがあった。
「短冊!」
七夕飾り。
見事な緑の笹の葉は色とりどりの願い事を抱えて、フロアにしっかり踏ん張っている。
「そっか、七夕だもんね……」
一年に一度のイベント。ダンテもちょうどこの飾りを見ることが出来る。
はうれしくなって、ふっと目を細めた。
『なんとかレンジャーになりたい』、『テストで100てんをとりたい』、『両想いになれますように』などなど、込められたたくさんの願い。
目にしているうち、も星に願いを掛けてみたくなった。
笹の側に用意された紙とペンを持つ。
「ええと」
いざ言葉にするとなると恥ずかしい気もするが、もしダンテに「あれがわたしのだよ」と見せたとしても……どうせ彼は日本語が読めない。
「よし!」
今いちばんの願い事を短冊に書き、手の届く範囲でいちばん高いところに吊るす。
赤い色紙の短冊は空調を受けて、彼のコートのようにふわりと揺れる。
それを満足げに眺めていると、鞄の中の携帯がぷるぷる震え出した。
その人物からの着信ランプの色は赤。
「ダンテっ!!」
もしもしも省略して、は電話に耳を押し当てた。
『わ!え?だよな?』
ダンテはコールに時間がかかると思っていたらしい。
驚いてはいるものの他の誰でもない彼の声に、は一気に胸が苦しくなった。
「そう、だよ」
答えると、安堵の吐息が聞こえた。
『悪ぃ、ちょっと焦った。つーか、こっち雑音だらけだけど、そっちはちゃんと聞こえてるか?』
「うん」
確かに雑音は邪魔だけれど、ダンテの声はしっかり届いている。
まさか電話がかかってくるとは思っていなくて、会う前に話ができるとは思っていなくて──心臓が慌てて胸がくるしい。
「ダンテ……」



後ろの騒音に消え入りそうなの声音に、ダンテは携帯を握り締めた。
彼女はもうこちらの状況を知っているのだろうか。
?」
隣にいるときのように呼び掛けると、はごめんねと謝った。
『もう飛行機でしょ?まさか電話してくれると思わなくて』
「あ、ああ」
ダンテはやべぇと鼻に皺を寄せた。
そう言われると遅延のことは切り出しにくいのだが……今回はダンテの寝坊や失敗でも何でもなく、不可抗力だ。
「実はまだ出発してねぇんだ」
『え?……あ、仕事とか……?』
「違う違う!悪天候で、フライトがキャンセルになっちまったんだ」
『そうなの?ごめんね、全然知らなかった。掲示見てみる!』
「ああ。でも多分、もうじき運航再開するから」
『便が決まったら、連絡くれる?』
「もちろんそうする。何度も出直してもらって悪ぃけど」
『そんなの。ダンテはどうするの?今は空港なんでしょ?』
俺も一旦引き返すよ、とダンテは欠伸した。
「じゃあ、電話切るけど……すぐそっち行くから」
『うん。気を付けて。まさかと思うけど、バージルさんに八つ当たったりしちゃだめだよ?』
「あー、それはちょっと自信ねぇな」
『ダンテ!』
「冗談だって。そうだ、
『ん?』
声を落とせば、は電話に耳を寄せたようだ。
すこしだけ待って、ダンテは通話口から、
ちゅっ
「Kissed you through the phone」
にキスを送った。
「気に入った?」
『もう!』
驚いて、そして照れているらしい彼女に、ダンテは声を立てて笑った。
「お返し待ってんだけどな」
『こっ、こんな空港でできるわけないでしょ!じゃあねっ、もう切るから!待ってる!』
ぷつんと唐突に通話が絶たれてしまった。
今の今まで大事に手で包んでいた携帯をくるりと回してぱちんと閉じて、ダンテはそっと苦笑する。
「こっちだって空港なんだけどな……」
それからもう一度、携帯に目を落とす。
もう通じてはいないことは分かっているが、もまだきっと手に携帯を持っている。
(なるべく早くそっち行くから)
さっきと同じように唇を落とすと、ダンテは雨の降り出した窓の外に視線を送った。





早くJulieがどこかへ行ってくれますように。
まるで恋敵のようにハリケーンの情報を睨み続け追いかけたに、『一日遅れたけど、無事に便が確定したぜ』ダンテからそう連絡があったのは、昨夜のこと。
それを聞いたらろくに眠れなくなって、はダンテの到着予定時刻の三時間前には空港に着いてしまっていた。
一日損してしまったけれど、向こうでハリケーンの被害もなく、思ったよりも早く飛行機が出発してくれたのは本当に良かった。
とにもかくにも、今日こそダンテに会えるのだから。
「うーんと、コードシェア便の7777……」
睡眠が足りない頭を働かせ、目蓋を擦って電光掲示板を見上げる。
『On Time』だった文字は、『Arrival』へと変わっている。
見間違いでも何でもない。
もうすぐダンテの姿が見えるはず。
は精一杯、爪先立ちで入国ゲートを窺う。
日本人だけでなく、金の髪や赤い髪の旅行客はいるものの、待ち遠しい色の髪は──

「誰を探してる?」

ふわっとさりげなく、肩に手が触れた。
そのまま後ろから抱きすくめられれば、目の端に銀色が踊る。
「だ、んて」
「良かった。おまえが見てんのは別のゲート。で、俺は」
くるりとの身体が回転する。
「こっちだ」
強引に振り向かされた先には、にっと鮮やかな笑みを浮かべた彼。
(ほんとうに?)
その姿を見てしまえば、ここが空港だろうが街中だろうが、周りの視線など関係なくなってしまう。
「ダンテ!!」
「おっと」
全力で抱きついてきたを、ダンテは笑いながらしっかり受けとめた。
「空港でこんなこと出来ないんじゃねぇのか?」
「あ、あれとこれは別!」
「まあいいや」
身を引いてしまいそうになったを逃がさないよう、腕に力を込める。
もおとなしく頭を寄せた。
「ダンテ」
「んー?」
「おかえりなさい……」
熱っぽく囁いて、それからははっと顔を上げた。
「って、何か違うよね。ええと、」
ようこそ日本へ?
「さっきのでいいって」
苦笑して、ダンテはが他人行儀な挨拶を口走るのを遮る。
「もう1回、言ってくれよ」
例え少々使い方が違ったとしても、それはひどく嬉しいものだった。
他の誰でもない、からの出迎えの言葉。
じぃっと身動きもせず待っているダンテに困ったように笑って、はもう一度さっきの挨拶を繰り返す。
「おかえりなさい」
「ただいま、darling」





空港からすぐ出てしまう前に、ふたりはぐるりを見て歩いた。

繋いだ手を持ち上げ、ダンテは前方にの注意を引く。
「あれ、何?」
ダンテが興味を示したものは食べ物の店。
フードスタンドのような店構えだが、カウンターはあるものの椅子がない。かといって、店の周りに席が用意されているわけでもない。看板はあるが、その文字の中でダンテが読めるのは『Soba』という部分のみ。
ああ、とが微笑んだ。
「あれはね、立ち食いそばだよ」
説明を受け、ダンテは首を捻った。
「……立ったまんま飯食うのか?」
「そう。食事の時間も惜しいって人が利用する感じかなあ。駅とかにもあるよ。最近はステーキ店なんかもニューヨークに出店したんじゃなかったかな」
「……すっげぇ」
「ん?」
漏れた感嘆の声にダンテを見上げてみれば、彼は瞳をきらっきらさせて立ち食いそば屋に見入られている。
「……ダンテ?」
「食おうぜ、ソバとかいうやつを!」
「ええっ!?」
「腹減ってるし、立ち食いしてみてぇ」
予想外すぎるデートコース。
「別にいいんだけど……」
ピザ大好きなダンテのために、あれやこれやとイタリアンの店をたくさん探しておいたのだが、果たして彼が帰る前に寄る時間はあるだろうか。
(まあ、でも)
立ち食いそば屋に目を輝かせてわくわくしている無邪気なダンテは、どうしても憎めない。
いくらがいろいろ考えていても、彼と会うときは必ず予想外の出来事が起こってしまう。
その度にダンテについて新しい発見があるから、それは全然悪いことじゃない。
は、用意したプランをまるっと頭から消去した。
「じゃあ、今回の旅行はB級グルメ食い倒れにしようか」
「いいな、それ!」
ダンテもすぐに乗ってくる。
店に入って行くダンテを想像すると、は噴き出しそうになった。
カウンター席でそばを注文する、美形モデルばりの銀髪碧眼の青年。
周囲のサラリーマンはぎょっとするだろう。けれどダンテは笑顔ひとつですぐに溶け込んでしまうに違いない。女性店員さんに笑いかけたなら、料理の一品くらいサービスになってしまうかもしれない。
ごく自然にそんな様子が目に浮かぶ。
、何笑ってんだ?」
「別にー」
ダンテに出逢えてよかったと思っただけだ。
素直にそう言ってみようかと彼を振り仰ぐと、視界の端に笹の葉の飾りがちらりと映った。
(あれも教えてあげないと!)
せっかく、今日は──
「ところでダンテ、今日は何日か知ってる?」
「6日だろ。7月6日」
「違うよー。もう時差ぼけしてる?」
「あ、7日か、今日」
「そう!7月7日!」
「それがどうかしたのか?」
ダンテは要領を得ない、と首を傾げる。
背後の短冊を背に、はにっこり笑った。
(ハリケーンを恨めしくも思ったけど)
遅延したおかげで、ダンテと7月7日に会えたのだ。
偶然だとしても、七夕に。
「後でね、教えてあげる」
昨日書いた短冊の内容も、そのとき一緒に。
「……?なんなんだ……?」
くすくす笑い続ける彼女に、9000キロメートルを越えてやってきたのアルタイルは、不思議そうに瞬いた。







→ afterword

機会があったら〜と思っていた『Wild Card』の続きです。我慢できなくて書いてしまいました。行き当たりばったりシリーズダンテ編…
タイトルは文中の「彼と会うとき」の『when I see him』と『願い事』を掛けました。

七夕だしロマンティックに☆と思っていたら、世界一スタイリッシュにそばを立ち食いする悪魔ですみませn
初代とよん様は、吉○家で「牛丼大盛りつゆだくで、あと玉も」とか!知らない内に、周りから焼き魚とかお味噌汁が差し入れされると思います!(笑)2様はほかべん持ち帰りとか…(殴)
何が言いたいのかというと、どこで何を食べてもダンテはスタイリッシュだし、有り得ないくらいに可愛いしかっこいいということです。

ヒロインの短冊は、何て書いてあるんでしょうか。
私のは『早く双子に逢えますように』です!

それではここまでお読みくださいまして、本当にありがとうございました!
2009.7.16