てのひらダンテ

one more game 編




「ダンテの番だよ」
わたしの声に、ダンテはきりりと真剣な眼差しで頷いた。
空高く詰まれたブロックの塔──小人ダンテにしてみれば、だが──の周りを練り歩き、外しても平気そうな部分を探す。
タワーを崩したら負けの、このゲーム。
只今ダンテが勝利目指して賭けているものは『ストロベリーサンデー』。
ダンテが勝ったら作ってあげる。逆にわたしが勝ったら、ダンテは一週間オーダーなしでおとなしくする約束。
負けてしまっては168時間も好物を食べられないとだけあって、ダンテはかなり本気だ。
(たかだかゲーム、サンデー賭けてるだけなのに)
うんと首を反らして脆そうな部分を見極めている後ろ頭は、ちょっと可愛い。
狙いが定まったのか、ダンテは本気な横顔で、よしと頷きテーブルを蹴る。
「えっ!?」
あんなに慎重に選んでいたのに、ダンテはこともあろうにキックでブロックを外そうとした。
彼のイメージではだるま落としがあったのかもしれないが──複雑に積み重なった長方形に、その方法は不適切だった。
がらがらがらっ
やかましい音を上げて塔は派手に崩壊。
巻き込まれたダンテは、みるみるブロックに飲み込まれていく。
「あーぁ、やっちゃったね」
いまやすっかり彼の姿は見えない。
「ダンテの負け。サンデー抜きだね」
………………おかしい。返事がない。
意地悪を言ってみても、中から出て来る気配がない。
まさか……ぺしゃんこに潰された?
「ダンテ!?」
半分悲鳴混じりにブロックをどけると、まずはにょきっと腕が伸びてきた。人差し指で引っ掛けて、ダンテを釣り上げる。
救出された彼は、しょんぼりと負けにうなだれていた。
それだけではなく。
「おでこ怪我してる!」
ブロックにぶつけたらしく、血がぽたぽた垂れている。
気付くとダンテはぐいっと袖で無造作に額を拭った。
「まだ付いてる……」
ティッシュを消毒液で濡らして、ちいさい顔を綺麗にしてあげると、ダンテは『ありがとな』と青い目を上げた。そのお礼にも、何だか元気がない。
相当痛かったのだろうか。くるんと背中を丸め、向こうを向いてしまった。
──こんなダンテ……調子が狂う。
わたしはつんとその背を撫でた。
「ココアなら、作ってあげる」
サンデーより楽だしと、そう言った途端……、ダンテはおおきくニィッと満面の笑みを浮かべた。数瞬前とは正反対、勝ち誇ったその表情。
「ダンテ……」
──だまされた。あんな大根演技に、だまされた。
きりきり悔しく思っても、散らかったブロックに座って笑っているダンテはやっぱり憎めなくて、こう、可愛らしくて……
(まあ、いいか)
ダンテにはかなわない。
「またブロックしよっか」
次はココアを賭けて。
わたしの誘いにダンテは好戦的に笑うと、『サンデー』『ココア』と単語を主張した。今度は両方賭けてくるつもりらしい。
また負けたら、一体どんな手段を使ってくるんだろうか。
最初から勝敗が決まっているのも、相手がダンテなら……まあ許せる。
マグカップを大小揃え、わたしはココアを、

「……あ。ダンテごめん、ココア切らしてた」

わたしのうっかりに、ダンテがあんぐり口を開けた。