ダンテは傘のさし方が下手だ。
弾むような足取りだからか、それとも傘を支える腕がリズムを取るように落ち着かないからか。
とにかく、半分以上は私にさし掛けてくれているのに、家に着く頃にはふたりとも同じように濡れている。
頭上のグレーの雲はもくもく厚く、どっしり構えて動かない。
店を出たときには頬を撫でるくらいだった雨も、びたびたと叩くような強さに変わっている。
傘からはみ出した右肩が水を吸って、もうかなり重い。
「ダンテ」
困って彼を見上げれば、ダンテも似たような顔をしていた。
やっぱりおとなしく傘を手に歩くのは苦手らしい。
お互いに三秒だけ悪戯っぽく目を見交わした後、
「走るか」
「うん」
傘はぱたんと閉じられ、すぐにダンテがコートを広げて私を包んだ。
ばしゃばしゃと賑やかに水溜まりを蹴上げて走る。
足元が汚れるのも構わなくなると泥が跳ねるのすら楽しくて、どうしても笑ってしまう。
走って走っているうちに、金魚みたいに口を開ける時間が長くなる。
横のダンテはと言えばそんな様子は全くなく───息が上がっているのは私だけなのが、すこし悔しい。
けれどダンテの耳元で遊ぶ髪が濡れてきらきら綺麗なので、胸が苦しいのはきっとそのせいだと思ってみる。

赤いコートは、街中をいちばんの速さで駆け抜ける。
そうしてダンテはスーパーマンに。私はロイス・レーンに。
もっとも彼にはクリプトナイトなんて弱点はないけれど。

my marvelous hero

「傘なんていらないね」
くすくす呟くと、赤いコートがよりいっそう空に翩翻と翻った。







→ afterword

日記に載せていた短文です。
せっかく今MARVEL気分なので(スーパーマンはDCだけど)、サイトに持って来る事にしました。
短いですが、ここまでお読みくださってどうもありがとうございました!
2011.11.24