ふたりが家に戻っても、まだバージル達は帰って来ていなかった。
しーんと静まり返っている家、しかも他人の部屋にふたりだけ。どうにも落ち着かない。
一旦ソファに座ったダンテだったが、すぐに立ち上がる。
「何か飲むか?」
会話のきっかけの切れ端をもらい、もぱっと反応した。
「うん。あ、でも人の家の冷蔵庫……」
きょろりと周りを眺める。
遠慮することない、とダンテが腕を広げた。
「構わねぇだろ。オレ、これでも家族だし」
「そっか」
「しばしお待ちを、my guest」
ウェイターよろしく片手をお腹に巻き込んで優雅に一礼する彼に、はくすりと吹き出す。そしてすぐに、あっと腰を浮かした。
「アルコールはだめだよ」
「え?いいだろ」
ダンテがキッチンの向こうから頭を覗かせる。
「本当に怒られちゃうよ」
「大丈夫だって」
放っておいたらオーダーが捻じ曲げられてしまいそうな様子に、もキッチンに立った。
「失礼しまーす……」
広々としたキッチンの片隅には、到底二人暮らし用とは思えない程の大きさの冷蔵庫が据えられている。
『やっぱり食品の備蓄多いって本当なんだ……』
「ん?どうかしたか?」
「何でもないよ」
ダンテに視線を戻すと、彼はベイリーズのボトルを持ち、今にもグラスに注ごうとしているところだった。慌ててその腕に飛びつく。
「だめだってー!」
「こんな甘い酒、ジュースみてぇなもんだよ」
「それでもだめ!減ってたらバレるでしょう」
きっと睨むの黒の瞳に、ダンテは可笑しそうに頬を緩めた。
「そんな先まで考えなかったな。、実は悪巧みとか得意だろ?」
「ええっ?そんなことないよ」
「バレても怒られない理由でも考えてくれよ」
「だから、」
取り上げようとボトルに手を伸ばすから、それを遠ざける。
「だめだってー!」
離れたボトルに精一杯指を伸ばすと──とダンテは、ぴたりと寄り添う体勢になった。
「あ……」
(ま、まずい)
近すぎる。というか、くっついてしまっている。は目を泳がせた。
ただ密着するというなら初日にバイクの上で似たようなことになってはいる。だがそのときとは表裏の向きだけでなく、互いに抱える感情の濃さがまるで違う。
離れようとしたの手首を、ダンテが掴んだ。
「」
これまでになく低く、熱がこもった声音。
何、とたった四文字の単語すら音に出せずに、は彼を見上げた。
間近に視線が絡む。
ダンテの瞳の色は薄いブルーなのに、つめたさよりは熱を感じさせる。
「……」
もう一度、ダンテはの名を呼んだ。
「彼氏……いないよな?」
聞き間違えようがないくらいにゆっくりと訊ねられ……はゆっくりと顔を横に振った。
「……いないよ」
「よかった」
聞いた瞬間、ダンテはベイリーズをぽいと放り出した。
空いた手でをふわっと包み込む。
くっつくとか密着ではなく、もっと意味のある抱擁。
「だ、ダンテ!」
「悪巧みなら、オレの方が得意かもな」
耳をダンテの声がくすぐる。
「ダンテ」
狭い空間から、もそ、とが顔を上げた。
「そういうダンテには彼女は……いないの?」
いても全然おかしくない。どころか、いない方がおかしい気さえするのだが。
「はあ」
ダンテが呆れて大袈裟な仕草で溜め息をついた。
「あのな。いたらこんなことしねぇだろ?」
飛び出したの頭をもう一度胸に押さえ、ダンテは更に腕に力を込めた。
「く、苦し」
「今度つまんねぇこと聞いたら、その口塞いじまうぜ」
「わかった、から」
「あ。やっぱ今の取り消し」
「なんで?」
「どっちにしても塞ぐから」
「なっ」
ダンテの唇が一度、の前髪に下りる。
そこから下へ……もはや焦点が合わないくらいの距離に、は目を伏せた。
鼻先が触れ合ったとき、
『ただいまー』
玄関からの声が邪魔をした。
もダンテも、ばちんと電気が走ったかのように離れる。
『お、おかえり、』
髪を直しながら、慌ててはを出迎える。
キッチンからダンテと二人で登場して、しかも顔が真っ赤な親友。……とりあえずは、普通に笑顔を作った。
『ただいま。、今日はちゃんと遊べた?』
『うん。……言葉も、そんな、困らなかったし』
日本語なのに何故か言葉に詰まっている。
(これは……?)
はにやにやと彼女をからかいたくなった。
ちらりとダンテを見れば彼もどこかそわそわと、顔は反対側を向いているけれど、こちらの会話の内容を何とかキャッチできないかと全身でアンテナを張り巡らしているのが丸分かりだ。
(よかった)
今週くらい学校を休もうかと思ったのだが、自分の不在がかえって二人を仲良くした模様。
はほくほく微笑んだ。
『今夜は外食にしようかってバージルと話してたんだけど、どう?疲れてない?』
『疲れてない!』
即答すると、は元気よく立ち上がった。
『行きたいところがあるんだ!』
『そうなんだ。どこどこ?』
『あのね』
みんなで行けるなら、ちょうどいい。
ダンテを振り返ってみる。あそこなら、彼も喜ぶはず。
『スポーツバー!』
ダンテが言っていた通り、夜のスポーツバーは昼間とはまるで様相が変わっていた。
テレビが流していた録画の試合は生中継に切り替わり、見やすい前列やその周辺はチームのグッズを身に付けたファンがアルコール片手に盛り上がっている。
それらから少し距離を置いた奥まったテーブルを、順番待ちの後に四人はようやく確保した。
「ほんとに昼間と大違いだね」
「な?血が騒ぐだろ!」
喧騒に負けじと声を張り上げるとダンテの会話に、バージルが聞き捨てならないと目を吊り上げた。
「昼間?昼からこんな所に連れて来ていたのか?」
にわかに鋭くなった眼光に、「げっ」とダンテは肩を竦める。
「いや、結局飲んでないから」
「結局?最初はそのつもりだったのか」
「それは」
「おや、あんたたちまた来たのかい」
注文を取りに人混みをかい潜って、昼間と同じ店員がやってきた。ダンテとに目を留める。
「何度来てもらっても、年齢確認できないと酒は出せないよ」
すっかり暴露された昼間の悪事(未遂ではあるのだが)に眉を聳やかすバージルに、ダンテとは身を縮めた。
そんなこちらの事情も露知らず、店員はずいっと手を差し出す。
「で?何か持ってきたかい」
「パスポート持って来ました」
しおしおと取り出されたの赤い手帳に目を走らせ、店員はOKと親指を立てた。
「全員ビールでいいかい」
「いいよ」
バージルが口を挟むよりも素早く、ダンテが手を上げた。
最初に運ばれたビールは、ほんの挨拶代わり。
タコスのおともにワカモーレとフライポテトをどんどん平らげながら、とはカクテルでほろ酔い気分、ダンテとバージルは更にビールを空けた。
「こんなバーあったんだね」
興味津々、は周りを見渡す。
その言葉に目をまるくしたのはダンテだ。
「おいおい、近所だぜ?」
「知らなかったよ」
は笑ってカクテルのチェリーをつまんだ。
家から近いし、何度も側を通ったことならあるのだが。
「誰かさんは図書館や本屋ばっか連れてってんじゃねぇの?」
ダンテの揶揄が向けられると、バージルがふんと鼻を鳴らした。
「娯楽というなら、ベガスへ行ったばかりだが?」
「あれは私が懸賞当てたんですけどね……」
「いいなぁ、ラスベガス」
会話を聞いていたの眼差しが、ぽーっと別の観光地に飛んでいく。
横でダンテがぐびっとビールを一口煽った。
「ベガスみたいな派手なのはねぇけど、ダーツなら後ろにあるぜ」
親指でダーツボードを指す。
波紋のように丸が描かれた遊戯盤。アルコールで好い心地、三人の興味が集まった。
どの表情も万更ではなさそうである。
「当然、個人戦よりチーム戦だよな」
ダンテがにやりと唇に笑みを浮かべた。
「罰ゲーム付きで」
「罰ゲーム?」
不穏な響きにとは目を見合わせたが、その二人をよそにバージルはダンテに向けてゆったりと頷いた。
「いいだろう」
「よし!早速ペア決めようぜ」
チェリーのへたを2本、誰にも見えないように持つと、ダンテはそれをに選ばせた。
「長いへたなら、オレとペア」
「じゃあ……これ」
が選んだのは、短いへた。
「オレとか」
ダンテは一瞬だけ期待外れに視線を揺らしたが、それならそれでとすぐに思い直す。
「……負けた方が勝った方にキスな!」
「え!」
真っ先に反応したのはだった。照れ隠しに髪をいじる。
「あの。それって、たちに罰ゲームにならなくない?」
そもそもダンテとにも『罰』ではないのだが──それはまだお互い、ぎりぎり口には出せない。
の疑問にも同意したが、男二人は意味ありげに視線を交わした。
「こちらはこちらで特別ルールでいいな?」
「どうぞお好きに」
「ちょっと二人とも、勝手に決めないで!特別ルールって何?」
「負けなきゃいいんだよ、簡単だろ」
「それはそうだけど……」
言うだけなら簡単なのだ。はを見た。
「、ダーツは得意?」
「やったことない。は?」
「私も二、三回くらいしか……」
とすると、勝負の行方は。
(彼ら次第……)
ルールは基本に忠実に01。持ち点から矢で当てた得点を引いていき、早く0にした方が勝ちということにした。
最初のラウンドこそ和やかに、にはダンテが、にはバージルが敵チームながらアドバイスに回っていた。
「頭でややこしい事考えんな、楽に真ん中に投げればいいから」
「真ん中が難しいんだよ」
「じゃ、ボードに刺さればOKだ」
「それくらいなら……」
何とかがボードに矢を投じれば、
「肘を固定しろ。飛ぶ矢のイメージを持て」
「え?え?」
「肩に力が入り過ぎだ、腕は柔らかく」
「こうかなぁ……」
とりあえずはの矢もボードに刺さる。
が……、そんな風に順調だったのは、序盤のみ。
ラウンドが進むにつれ、勝負の行方に熱が入ったのは、やはり双子の方だった。
「Too easy」
ダンテがビール片手に派手にハットトリックを決めれば、
「Don't get so cocky」
バージルは地味でも手堅くスコアを重ねる。
……との予想通り、試合はほぼダンテVSバージルの様相を呈していった。
どちらも一歩も譲らない。
しずかな熱戦、対峙する美形双子。さっきまで野球の観戦をしていたファン(特に若い女性達)が、テーブルを囲んでやんややんやと歓声を上げ始めた。
残りは1ラウンド残すのみ。
(まずいな)
スコアを睨み、ダンテは片目を細めた。
先攻のバージルが投げる最後の一本──ダンテが考えている通りなら、バージルの狙いは恐らく……
(Three In A Bed)
既に2本は10のダブルリングを貫いている。あと1本で、アワードだ。そしてそのままバージルとの勝利。
(ギャラリー湧かせちまうな)
勝負もそうだが、がバージルに賞賛を送るのは大変面白くない。
「」
ラスト1本の前に、ダンテはちょいちょいとチームメイトを呼んだ。
すっかりとギャラリーの一員に溶け込んでいたが席を立つ。
「なに?」
「バージルにさ、…………・って言って来いよ」
「何それ?」
「これも立派な心理戦てやつだ」
「もう……」
呆れながらも、とて『特別ルール』適用は恐い。勝利のためには手段も選んでいられない。
(効果があるかは知らないけど)
「バージル」
既に立ち位置を決めていた彼に、声を掛ける。
バージルは顔だけの方を向いた。
ダンテに言われた通り、は健気な表情でバージルを見上げ、
「がんばって。今は敵チームだけど……応援してる。ずっと見てるから」
にっこり笑ってみせた。
バージルは特に何も言わないまま、ボードに視線を戻す。
その表情も態度も、まるで変わらない。
がすごすごとダンテの隣に戻った。
「やっぱりムダだったね」
「いいや、絶対効いてるって。……ほら!」
トスッ。
バージルが投じた矢はブルズアイを貫いた。見事にど真ん中だが、残念なことに点を獲得しすぎのバーストである。
「やったー!」
この時点で、ダンテ有利。
手持ちの矢を慎重に投げ、無事にダンテ達が勝利をもぎ取ったのだった。
「さーて、罰ゲームだな」
満面の笑みで実行のときを今や遅しと待つダンテ。
「こっちが勝ったんだよね……」
勝利したにも関わらず怯える。
「俺の負けか」
バージルがつまらなそうに呟いた。
軽く進み出、の肩に手を置いて引き寄せる。彼女の耳に唇を寄せ……けれど何もしない。
「続きは後でな」
「ちょっ……今終わらせようよ!」
「ここでは差し障りがある」
「頬に軽くキスするだけでしょ!」
「おまえ、すっかりこっちに慣れたな」
「そうじゃなくて……!」
ぎゃんぎゃん騒ぐを尻目に、も、かなり困っていた。
「あの、あっち、賑やかだね」
「そうだな」
相槌を打ってはいるが、ダンテはまっすぐしか見ていない。
彼女の一挙手一投足を逃すまいと、たのしげな瞳。
「こっちも盛り上がろうぜ」
「う、うぅ」
は喉から妙な声を出した。
罰ゲーム……ダンテの頬にキスしなければいけないのだが。
(見つめられたままじゃ、やりにくい……)
「あの、目、閉じてもらえる?」
「何で」
「何でって……」
ダンテは笑いに唇を噛み締めた。
絶対に、理由を分かっていて意地悪している。
(それなら……!)
こっちだって、もう意地だ。
(キスくらい、挨拶でしょ!)
恐いくらいの決意を秘めた顔を寄せてきたに、
「あ。!」
ダンテが急に大声を出した。
「えっ!?」
びくりと中腰で動きを止めた彼女の唇──そう、頬ではなく、唇──をたやすく奪う。
ちゅっとちいさな音が、煩いはずのフロアにやけにおおきく響いた。
「罰ゲームじゃねぇな、これ」
唇を舐め、さらりとしらばっくれたダンテに、成り行きを見守っていたギャラリーが大歓声を上げた。これではまるで生放送のシットコムだ。
「だ、ダンテっ……!」
主人公たるは、真っ赤な顔をして口元を押さえている。
横でバージルが呆れた。
「お前、訴えられても知らんぞ」
「訴訟天国だもんね」
までからかう。
が、当のダンテはけろりとの肩に腕を回す余裕っぷり。
「が嫌じゃなきゃいいんだろ?」
ひたとを見つめる。そして周囲に洩れないよう、声を低めて囁く。
「キッチンの続きのつもりだったんだけどさ……」
嫌だったか?
「……。」
言葉で答える代わり、は素早く唇をつけた。ダンテの頬と、そこにかかる銀の髪。
音こそ何もしなかったけれど、予想外のうれしいお返しに、ダンテは一瞬自分の肌の感触を疑った。
『罰ゲームだと思ったら、こんなことしない』
が日本語で早口にぼやいた。
意味は全く理解出来なかったが、彼女の想いはダンテに深く沁み込んだ。
「分かってるよ……」
それから一週間。文字通り片時も、ダンテはを離さなかった。
一分一秒でも惜しい。
ふたりとも、この時間が限られていることには触れなかった。
一日の終わりや始まり、そんなきっかけで思い出してしまいそうになる度、ダンテの口は言葉の代わりにキスで誤魔化したし、は逆にとりとめのない会話を繋ごうとした。
けれど互いを知れば知るほど、残り時間は容赦なく減っていく。
そうしてついに、が帰る日がやってきた。
「あっという間の一週間だったね」
はダンテさんに取られてばっかりだったし。苦笑しながら、がおみやげの紙袋を手渡す。
「八月頃にはまた来られるんだろう」
バージルがぱんぱんに膨れ上がったスーツケースを転がした。
「お世話になりました」
こちらに着いたときよりはだいぶ上達した英語で、はにっこりお礼を言った。
「本当に楽しかった」
バージルとに頭を下げてから、後ろでポケットに手を突っ込んだまま立っているダンテに顔を向ける。
ダンテにしては珍しいことに、今日は朝からバージルよりも口数が少ない。
「ダンテ」
が声を掛けても、相変わらず表情は冴えないまま、ようとダンテは手を上げた。
「……元気でな」
絞り出すような声に、も喉を詰まらせた。
(次に会うまで、たった三ヶ月じゃない)
昨夜、また遊びに来るからと約束をした。また会えるから。ダンテは何も言わなかった。
「じゃあ、ね」
は重くなった荷物をまとめ、チェックインに歩き出した。
最後にもう一度手を振る。
とバージルはしっかり見送ったが、ダンテはそちらを見もしなかった。
遠くなってしまったの姿を、は寂しく見つめた。重たい紙袋とスーツケースに両脇を固められ、ひどくか弱く見える。
「あーぁ、またしばらく会えないんだねー……」
呟いてちらりとダンテを窺うと、彼は炭酸の抜けたコーラのような弱い笑みをに返した。
けれどすぐにの方に顔を向ける。
その、色々な感情がない交ぜになって全てを堪えるような双眸。
は息を詰めた。
(バージルと同じ)
ついこの間、同じ表情を見たばっかりだ。
そっとダンテの隣に並ぶ。
「……引き留めなくていいの?」
ダンテがぎくりと肩を揺らした。
「今なら、まだ」
「その必要があるか?」
背中を押そうとしたの腕を、バージルが掴んで止める。
「彼女にも彼女の生活があるし、どうせ八月にはまた来るんだろう?」
バージルはふんと目を眇めてダンテを見やった。
「一週間を12回、過ごすだけだ」
一人でな。
経験者の言外の含みに──ダンテは開眼した。
「……っ」
(一週間を12回、ひとりで?)
無理だ。
(腐っちまう)
じっと長いこと、ただ待ってるだけなんて無理だ。
(今引き留めなかったら、一生後悔する)
「……」
一度床から引き剥がしてしまえば、後は足が勝手に走りだす。
「!」
走りながら、この気持ちはいつ出来上がったんだろうと不思議に思う。
こんなにも簡単に、ダンテの世界は流れを変える。
さりげなく、それでいて強い──手元にやってきたというワイルドカードの存在、ただそれだけで。
「!!!」
腹の底から振り絞った精一杯のダンテの声。
が弾かれたように振り返る。
は泣いていた。
涙を見て、ダンテは思わず舌打ちした。
最初から手放さなければよかった。
「『元気でな』なんて、もう絶対言わねぇ」
泣きじゃくるを、ダンテはしっかり捕まえた。
「あー、やっぱりダンテって可愛かったんだね」
「天使そのものだろ?それに比べて、こっち見てみな」
「ちょ、直立不動、だね……」
「笑えるよな」
「もう、二人とも分かってないなぁ。それが可愛いんだよ!」
「おまえ達……」
先程から長い間、家族の想い出の写真を手にぴったりと寄り添って、いちゃいちゃいちゃいちゃ会話を交わしている弟とその恋人。
おまけに妻までそっち側に座ってしまって、一人ぽつんと眺めるこちらバージルは相当いらいらしていた。
(うまく事が運んで良かったが)
べたべた離れる様子のないダンテと。
そして彼らを見守るも思いっきり笑顔で幸せそうだとなれば、結局のところ、バージルに不満はない。
やれやれと溜め息をつけば、気付いたが微笑んで「こっちこっち」と手招きした。
もう一度だけ深々と息を吐き、バージルは席を移動する。三人が座ってただでさえ狭苦しいソファ、その四つ目の場所。
「狭い!」
端へ押し付けられたダンテが仰け反った。
「詰めようか?」
の方へ離れかけたを見て、ダンテはいいことを思いついた。
「いや、もっといい方法があるぜ」
の腰にするりと手を回す。そして、
「え?わ!!」
ひょいと彼女を膝に座らせた。
甘い香りのの髪に、満足そうに口づける。
「完璧……」
「ああもう!」
力ではどうにも敵わない。
大人しくするしかないを抱き、ダンテはふと横を見た。
「なぁ、バージル」
「何だ」
「またダーツ行こうぜ。オレも『特別ルール』やりたい」
「……ああ。いつでも構わない」
「ちょっと!!」
勝手に決定しつつある企てに、とが戦いた。
「負けなけりゃいいんだ」
簡単だろ?とダンテは笑ったが。
このゲームは勝っても負けても同じこと。
四人全員、そう思った。
- → afterword
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大変遅くなってしまいました…13万打のお礼のダンテ夢です。
日本人ヒロインシリーズでバージルは幸せだけど、ダンテはまだ…ということで書きました。
もう一組がでしゃばってしまいましたが…楽しんでいただけましたでしょうか;
スポーツバーは、バージルとダンテで行動範囲がかぶらない!素敵!と一人で盛り上がってました。
ダーツは、バージルとダンテで悪巧みが一致して怖い!素敵!と一人で盛り上がってました。
ビリヤードとかもしてもらいたいです。双子は退廃的なゲームが妙に似合うような気がします。
続きももう一話ありますので、よろしければそちらにもお付き合いください。
それでは長々とお付き合い下さいまして、本当にありがとうございました!
2009.7.16