Goddess's blessings




事務所のソファで、バージル、ダンテ、の三人が寛いでいると、ゆっくりと開いた扉から、買い物に出ていたが帰ってきた。
「お帰り、。」
彼女の帰宅に、が見ていたテレビからに顔を向けて声をかける。
それには、消え入りそうな声でただいまと言うと、三人の傍までやってきて、俯きながら立ち止まった。
…肩まで落として立ったままでいるのその表情は、まるで世界の終わりでも見てきたかの様に、どんよりと沈んでいた。
「…どうしたの?…」
彼女の様子にただならぬものを感じ、に駆け寄って、彼女に尋ねる。
そのの動きに、バージルとダンテも、ソファから彼女達に何事かと顔を向けた。
三人から向けられる心配そうな眼差しに、無言で俯いていたが、ややあってからぽつりと呟いた。
「お財布落とした…」
「………え?」
の言葉が一瞬理解出来ず、思わず聞き返したが、彼女に再び尋ねる。
「お財布落とした事は確かに大変だけど…そんな死にそうな顔しなくても…」
「…実はさっき、日用品買うのにお金が足りなくて、お金を下ろしてきた後に…」
「………という事はもしかして…生活費がからっぽに…?」
少し冷や汗を掻きながら恐る恐る尋ねたに、が少しの間の後、泣きそうな顔でこくりと小さく頷いた。
「それは~…まいった…」
の話を聞いて、困った顔では、思わず考え込む様に腕を組むと、ソファに座って話を聞いていたバージルとダンテに振り返る。
「二人とも、今どれくらい持ってる?」
「…あんまり残ってねぇぞ?依頼料が入ると思ってたし。」
「…俺も大した違いはない。」
の言葉にダンテはポケットから、バージルは黒革の財布から、数枚の紙幣を出して、テーブルへと置いた。
それを見ては、また腕組みをして、う~んと考え込む。
次の収入までの、食費、光熱費、その他諸々…どんなに節制しても、大人四人が生きていくには、今の所持金では、どうしても足が出てしまう…
「一ヶ月キャベツの丸噛りと玉ねぎの丸噛り、どっちがいい…?」
『……………』
…出来ればどちらもお断り願いたい二者択一をから真顔で迫られ、バージルとダンテが思わず黙っていると、責任を感じたが、益々頭を垂れて沈んでしまった。
「ごめんなさい…」
今にも身投げしそうなの様子に、三人で何か手はないかと考えていると、が何か思いついて、あっと声を上げた。
「よし。こうなったら最後の手段だ!」
そう言うとは、古新聞の広告を漁り、その一枚を皆に見せた。
それは、最近この辺りに出来た高級ホテルの広告だった。
「…まさかホテルでバイトでもしようってんじゃねぇだろうな…?」
が見せた広告に、ダンテが訝しげ尋ねると、彼女は違う違うと首を振り、その広告の隅を指差した。
そこには、宿泊客以外でも入場が出来る、カジノの案内が書いてあった。
「カジノ~?やめとけよ、おまえじゃまず勝てねぇって。」
の勝負弱さを考えれば、余りに非現実的な彼女の提案を笑い飛ばすダンテに、しかしは自信有りげに笑ってみせた。
「大丈夫。私達には勝利の女神がついているんだから!」
そう言っては笑みを浮かべながら、の肩をぽんっと叩く。
それを見てバージルとダンテも、成る程と納得した。
…三人の視線が自分に集中しているのに気付いたが、引き攣った笑みで、思わず自分を指差した。
「………私…?」



…夢を買い、夢に破れ、翼の生えた大枚が、夜空に飛び立つ儚い宴。
明日を生き抜く為に四人は、この宴へとやってきた。
ドレスコードの為に正装し、四人はそれぞれ、互いの健闘を祈って、戦場へと散る。
二人と別れたバージルとは、暫く悩んだ末、が選んだルーレットのテーブルへとやってきた。
数枚のチップを持って、どこに賭けようか、はしばし真剣に悩む。
そして、悩んだ割には特に理由もなく、『赤の37』へと、持っているチップを全て置いた。
…それを彼女の隣で見ていたバージルが、驚きに目を丸くする。
「始めから一点に全額賭けるのか、おまえは!?」
「えっ?だって、ここに描いてる×(かける)って倍率でしょ?だったら倍率が高い所がいいんじゃないの??」
「倍率が高いという事は、当たる確率が低いという事だ…それに普通は、張る場所を分けるものだ…」
「そうなの?」
の行動にバージルが面食らっているうちに、の賭けを取り消す暇も無く、ディーラーがルーレットを回してしまった。
カラカラと玉が音を立てて、いずれかの数字へと落ちる。
…明日からキャベツにするか玉ねぎにするか、バージルが真剣に悩んでいると、ルーレットがゆっくりと回転を止め…玉は赤の37にその身を置いていた。
何十倍にもなったのチップを、ディーラーが彼女の前に差し出す。
「やったー♪見て見てバージル!こんなにたくさん返ってきたよ!!」
無邪気に喜ぶを呆気に取られた様子で見つめていたバージルが、思わず小さく呟いた。
「天性の才能だな…おまえの勝負運は…」
その後もは負け知らずで、あっという間に彼女のチップが山の様になってしまった。
…そんな彼女に、熱い視線を向けている男が一人。
チップが増えたので、二人は一度それを換金する事にした。
「バージルはしないの?カジノ。」
換金へと向かう道すがら、にそう聞かれ、彼女の隣を歩きながらバージルはそれに答えた。
「賭け事は性に合わん。此処にもおまえに付き合って来ただけだ。」
換金を済ませ、次は何処へ行こうかと二人が立ち止まっていると、男が一人、微笑みを浮かべながら彼らに近づいてきた。
「失礼。先程、ルーレットのテーブルに居た方ですよね?」
近づいてきた男は彼ら…いや、を見ながら、そう声をかけてきた。
それを見てバージルの眉が僅かに跳ねる…
「そうですけど…貴方は…」
「おぉ、やはりそうでしたか!素晴らしい!!貴女の才能は実に素晴らしい!!!」
の質問を遮って一方的に話をし始めた男を、が訝しげに見つめていると、その視線に漸く気付いた男が、大袈裟な仕種で髪を掻き上げて彼女に白い歯を見せた。
「Oh!これは失礼を。ボクはここでは少し名が通った者で、ヤンと申します。先程拝見した貴女の才能に惚れ込んで、是非ボクのパートナーをお願いしたいと思い、声をかけたのですよ。」
…また一方的に自分の話を進め、あろうことかヤンは、の手を取ってその甲に口づけようとする。
しかし、彼女が我に帰ってその手を跳ね退けるよりも早く、バージルがヤンの手からの手を取り、冷たい眼差しをヤンに向けた。
「礼儀を知らぬ者に話す事など無い。失礼する。」
ヤンにそう言い放ち、の手を引いて、バージルが足早にその場を立ち去る。
「…臆病者。」
…背後から聞こえた言葉に、バージルの足がぴたりと止まる。
「戦いもせず逃げるのは、臆病者だよキミ。そんなの男じゃないね。あぁ、だから彼女の隣で見てるばっかりだったのかい?負けてすっからかんにはなりたくないもんね♪」
マズイ…と、の背中を一筋の汗が伝う。
この手の挑発が、一番彼の癪に障るのだ…
「バ、バージルは賭け事がキライなだけ…」
振り返ってヤンの言葉に言い返そうとしたを、バージルの腕が静かに押し止める。
「…何が言いたい?」
押し殺した声を漏らすバージルの瞳に、静かに灯った闘志を見て、遅かったかとは微かに溜め息をついた。
「ボク、Black Jackが好きでさ。よかったらちょっと遊ばない?手加減してあげるから♪」
馬鹿にしきったヤンの言葉を、バージルは小さく鼻で笑う。
「案内しろ。」
ヤンの勝負を受けたバージルに、妙な事になってしまったと、はまた小さく溜め息をついたのだった。



前を歩くヤンに着いていく二人が、あるテーブルに来ると、ヤンがディーラーと何やら小声で話をし、ディーラーが席に着いていた客達を退かすと、ヤンは真ん中の席に、どかりと座った。
「さっ、これでこのテーブルは、ボク達専用だ。心置きなく楽しめるよ?…でもただチップを賭けるだけのゲームじゃ面白くないね。キミが勝ったら、そうだな…今日のボクの稼ぎ、全部あげるよ。」
そう言ってヤンが指差した先には、高額のチップがうず高く積み上げられていた。
それに一瞬だけ目をやると、バージルは冷ややかな眼差しをヤンへと向ける。
「貴様が勝ったら?」
「判るだろ?もちろん彼女を貰うよ。」
バージルの問いにぬけぬけとそうヤンが答えると、バージルは今度は、に顔を向ける。
…何も言わず、見つめてくるバージルに、は呆れ混じりの苦笑いを返した。
「ちゃんと勝ってくれるなら、いいよ。」
「あぁ、必ず。」
自分の願いを承諾してくれたに微笑んで、バージルはそっと彼女の手を取る。
「俺にはおまえがついている。」
そしてバージルは、の手の甲に、軽く唇で触れた。
の対価にしては端金だが。」
そう言ってバージルが席に座り、ヤンと向かい合うと、それを合図に、ディーラーがカードを配り始めた。



ゲームが始まってから二人は、一進一退の攻防を続けていた。
白熱した勝負に、彼らの周りに自然と観客達が集まってくる。
Black Jackは、ディーラーと勝負するものだが、今回はお互い一対一で勝負する事になり、観客達も、もちろんも、彼らのゲームを固唾を飲んで見守っている。
「ボクは20。」
「Black Jackだ。」
勝ったバージルに、ヤンが賭けていたチップが渡される。
お互い同額のチップから始め、先にチップを使い切った方の負けとなる。
…しかし、ゲームが佳境に入った辺りから、バージルが急に調子を崩し始めた。
既に手札が揃っているのに、必要の無いカードを取って、自滅し続けているのだ。
「…Hitだ。」
今のバージルの手札は、KとQ…合計は既に20となっている…数字を21に近づけていくゲームであるBlack Jackにおいては、今の手札でも、勝負は可能だ。
此処でさらに21を狙って、21を越えてしまい駄目になる方が、一方的に負けになってしまい痛手となる。
…なのにバージルは、ディーラーにカードを配らせ、8と描かれたカードを受け取り、またも自滅してしまった。
「BUSTだ。」
「も~…ま~た~?これじゃゲームになんないじゃ~ん。ちまちまちまちま負けちゃってさ~。」
ヤンの言う通り、調子が悪い事をバージル自身も解っているのか、今はまだ、掛け金を少なくしているから持っているが、このまま自滅し続ければ、遅かれ早かれ、彼の負けは確実だった。
自身の不調に歯痒さを感じたのか、バージルが僅かに眉根を寄せ、ぐっと奥歯を噛み締める。
そんな彼の顔を見てヤンが、にっと口の端を歪めて笑う。
「だからあの時、逃げてればよかったんだ。臆病者らしくね。」
…ぐっと押し黙って睨むバージルをからかう様に笑って、ヤンはそうだ!と、何かを思いついた。
「もうボク疲れちゃったからさ~、次で最後にしようよ?早く彼女とイイコトしたいし♪」
そう言ってウィンクしてきたヤンに、バージルの隣に立っていたは、憮然とした表情で、べーっと舌を見せた。
しかしヤンは彼女の態度を気にした様子もなく、笑みを浮かべながら、バージルに向き直る。
「ね、そうしようよ?次で勝った方の勝ち。それでいいでしょ?」
自分の勝利を信じて疑わない、自分勝手なヤンの提案に、バージルは僅かに俯く。
…その俯いた彼が、微かに笑った様な気がした。
「あぁ、構わん。」
提案を飲んだバージルに、ヤンが再び歪んだ笑みを浮かべると、ディーラーがゆっくりとカードを配り始める。
…本当に…勝てるのだろうか…あれほど自滅を繰り返していた、彼が…
賭け事は嫌いだと言っていた。
もしや本当は…このゲームすら知らないのでは…?
ずっとバージルを応援していたにも、余りに不自然な彼の行動に、一抹の不安が過ぎる…
信じてはいる。
だけど、自分に何か出来る事があるのなら、彼の力になりたい。
「バージル…」
伏せたまま配られたカードを確かめようとしていたバージルは、不意に隣に立つに呼ばれて、彼女に顔を向ける。
…すると、ふっと彼女の顔が近づいて、唇に唇が微かに触れた瞬間、すぐには離れていった。
目を丸くしたまま固まっているバージルに、はぐっと両手に力を込めて彼を見つめた。
「絶対勝つからね!」
の言葉に思わず笑みを零して、バージルも彼女に応える。
「当たり前だ。」
そう言って、ゲームに戻ったバージルが、伏せたままのカードをめくる。
「………」
めくったカードをしばし見つめた後、バージルがディーラーにカードを要求する。
ヤンも彼に続き、カードを一枚貰う。
互いに今、手札は三枚。
「Hitだ。」
「ボクはStandだよ。」
ヤンは手持ちの三枚で決めた。
しかしバージルは、もう一枚要求して、計四枚。
そして四枚目のカードを見て、彼は更にもう一枚、ディーラーにカードを求めた。
これで五枚。
「あんまり欲張ると、また自滅しちゃうよ~?」
ヤンからのからかいにも耳をかさず、バージルは五枚目のカードを見る。
「Hitだ。」
更に六枚目を要求したバージルに、ヤンが僅かに目を見開き、観客も微かに騒ぎ始めた。
そしてゆっくりと六枚目を確認したバージルは、そっと伏せたまま、手札の束をテーブルへと置いた。
「Stand.」
バージルの静かな声が、勝負の時を告げた。
…実はバージルは、手札が六枚になった時点で、既に役が出来ている。
しかしヤンは、依然余裕たっぷりと構えていた。
「ふふん、6Cardsを狙ったのかい。でもご愁傷様、ボクはその上をいくよ?」
そう言って、自身に満ちた笑みを浮かべながらヤンが開いたカードは、7を三つ揃えた役だった。
確かにそれは、手札を六枚揃えた役より上位のものだった。
「さっ、これで勝負はついちゃっただろ?さっさと終わらそうよ。」
自分の勝利を確信して、満足げな笑顔を見せるヤンに…しかしバージルも小さく笑みを零した。
「そうだな。こんな下らん事はもう十分だ。」
そう言って今度はバージルが、カードを滑らせ、扇を開く様に自分の手札を開いていく。
まず一枚目は6。
二枚目には5。
三枚目は4。
…バージルの手札が開かれるにつれ、ヤンから徐々に笑みが消え、驚愕の表情で目を見開く。
3…2…
それはまるで、カウントダウンの様に、開かれるカードが数字を刻んでいく。
そして最後の一枚を、バージルが取り、ヤンに示してみせた。
それは剣の象徴…スペードのA。
Aから6までの六枚で21にする…それはBlack Jackにおいて、最上位に位置する役である。
バージルがその役を揃えた瞬間、ヤンは顔面蒼白で小刻みに震え、周りの観客からは歓声が湧いた。
「…い…イカサマだ!!」
激昂したヤンが立ち上がった拍子に、派手に倒れた椅子の音がその歓声を遮り、突然大声をあげた彼に周囲の目が集まる。
「これはイカサマだ!でなきゃそんな役…出来るはずがない!ボクが負ける訳がない!!」
駄々をこねる子供の様に大声を出すヤンに、バージルは呆れた様子で一つ息をつく。
「なら気が済むまで調べればいい。」
そう言って両手を上げたバージルにディーラーが歩み寄り、恐る恐る彼のボディチェックを始める。
しかしもちろん、イカサマをした様子など何処にも無く、ディーラーが静かに首を振るが、それでも納得しないヤンが、今度はを指差した。
「ならあの女だ!あの女はルーレットでも勝ち続けていた!あの女が何かしたに違いない!!」
ヤンの言葉に、今度は女性のスタッフが、のボディチェックを始める。
…それを膨れっ面で受けているから、ヤンの言い掛かりを正当化する物は、一切出てこなかった。
ディーラーと同様にボディチェックを済ました女性スタッフが首を振ると、耐え兼ねた様にヤンがへと詰め寄る。
「もっとよく調べろ!!絶対何か…」
に近づき、彼女の腕を掴もうとしたヤンに、バージルが溜め息をついた後、静かに視線を投げる。
…彼のその、強く冷たく鋭い…射抜く様な眼差しに、に触れる事なく、僅かに体を震わせて、ヤンは動きを止めた。
「喚くな、見苦しい。自分が言った事くらいは覚えていろ…男ならな。」
完全にバージルの気迫に圧されたヤンは、彼のその言葉に小刻みに震え、がくりとその場に崩れ落ちたのだった。



「なんかすごい事になっちゃったね…」
レストルームにもなっているバーで、ダンテとを待っているが、目の前に詰まれた札束の山を呆気に取られた様子で見ながらそう言うと、彼女の向かいに座るバージルが、シャンパンの入ったグラスを少し傾ける。
「でもバージルも、性に合わないっていう割には、勝負運あるよね。」
最後の最後で勝つのだからと言って笑うに、バージルも微かに笑みを浮かべてみせる。
「まあ少し、手を加えたがな。」
「えっ?」
バージルの言葉にが思わず聞き返すと、彼は素早く目を配り周囲を確かめ、シャンパンを一口含んでから口を開いた。
「カードカウンティングだ。」
「何それ?」
「それまでに出てきたカードの図柄と、残りのカードから勝率を求める方法だ。」
「………つまり…?」
「Black Jackは、10以上の絵札を全て10として数える。そしてAは、手札の合計が10を越えるまでは11、それ以外は1と数える訳だが…これらとそれ以外の数字のカードがどれだけ場に出たかを計算し、残りのカードに含まれる、こちらに有利なカードの割合を求め、勝率を導くというものだ。」
「え~と…」
…話の途中から何だか講義を聞いている気分になってきたは、腕を組んで彼の話を自分なりに纏めていく。
つまりは、バージルは場に出たカードから、次にどんなカードが来るのかを予想し、自分に有利になる様に、配られるカードを調整していたのだ。
何度も繰り返していた自滅は、有利なカードが自分へと配られ易くする為だった。
「つまり…最初から自分が勝てる様に、ゲームをやってたって事?」
「そういう事だな。」
自分が勝ちやすい様にゲームを進行し、勝率を上げ…そして彼は、機を逃さずに、悔しげな顔や焦った様子で、ヤンがその時…自分が高い勝率を得た時に、最後の勝負を持ち掛けるように仕向けたのだ。
「すごいね…バージル…」
あの瞬間で瞬時に計算して、そして勝ってしまうのだから…自分は話を聞いただけで、熱が出そうだ。
「それ自体は違法ではない。まあ、余りするものでもないが…だが勝てたのは、おまえのお陰だぞ?。」
彼の言葉にきょとんとした顔で見つめてくるに微笑むと、バージルは彼女の手を取り、軽くその指先に口づける。
実は、あの時彼が出した勝率は五分五分だった。
しかしそれ以上勝率を上げる事も望めず、彼はそこで勝負に出た。
そこで彼の勝利を後押ししたのは、あの時のの口づけ…
「本当に勝利の女神だったな。」
そう言って微笑む彼に、が頬を紅く染めて少し俯くと、バージルはもう一度彼女の手に、口づけを落とす。
しかし…あれ以上の勝率は望めなかったとはいえ、あんな綱渡りな勝負にを賭けなければいけなくなるとは…
「…やはり賭け事は性に合わん。」
誰にも聞こえない程の声でバージルがそう呟くと、漸くダンテとが、苦虫を噛み潰した様な顔で、二人のところへとやってきた。
「おかえり~!二人共どうだった…って、その顔見たら分かるか…」
どうやら散々に負けてきたらしい二人に、が苦笑を浮かべると、が山積みの札束を見て目を丸くした。
「すごい…の勝負運がこれほどとは…」
「…半分以上はバージルだけどね。」
が喋りながら、生活費には十分過ぎる大金をしまっていると、バージルがその山から札束を一つ取って懐へと入れ、おもむろにを抱き上げた。
「うえ!?」
突然抱き上げられ、が素っ頓狂な声を上げても、バージルは彼女を降ろす事なく、ダンテとへと顔を向ける。
「俺達はここに部屋を取った。事務所へは二人で帰ってくれ。」
…いつの間にとか、部屋って何だと慌てるを連れ去るバージルの背中を、ダンテとは何も言えずに見送った。
「…高い部屋なんだぜ、きっと。」
「まあ…頑張ってくれたへのご褒美って事で…」
「どっちのご褒美かわかんねぇけどな。」
遠ざかる背中を見ながら思わず互いにそう呟くと、ダンテが札束を見ながら、何やらじっと考え込む。
「…なぁ。」
「なぁに?」
「このまま負けっぱなしで帰ったら悔しくねぇか?」
「………」
…札束を一つ手に取って扇ぎながら、悪い笑みを見せるダンテに、も無言で、じっと彼を見つめる。
「………悔しいね~、ダンテさん。」
「そうだろ、そうだろ。」
「うん。すっごく悔しい。」
「一つくらい…大丈夫だよな?」
「…一つくらい…ね…」
…しばし見つめ合い二人で頷くと、ダンテとは札束を一つ手に、消えて行った。



やってきたエレベーターにを抱いたまま乗り込み、バージルは最上階のボタンを押す。
「あの…バージル…?」
腕の中のに呼ばれ、バージルが彼女に顔を向ける。
「何だ、最上階のスウィートでは不満か?」
「いやあの…そうじゃなくて…」
何やらもじもじと言いにくそうにしている彼女の言葉を待つバージルに、は少し俯き気味に呟いた。
「わざわざ泊まらなくてもその…家に帰ってからでもいいのではないかと…」
「…待てないんだ。」
「えっ?」
自分のそれよりも、更に小さな彼の呟きをうまく聞き取れなかったを、バージルが覗き込む様に、間近に見つめる。
「戦いを終えた者に、勝利の女神の祝福を。」
そう呟いて、バージルがゆっくりと彼女の唇に唇を寄せる。
…唇が触れ合う瞬間を隠す様に、二人を乗せたエレベーターの扉が静かに閉まった。



二人が甘い夜を過ごしているその頃…
ダンテとは、仲良く並んで、スロットのレバーを倒していた。
「勝てないね…ダンテさん…」
「そうだな…」
「何でだろうね…」
「誰かさんが勝利の女神を独り占めしてるからじゃねぇか…」
「そっかぁ…」
自分達のツキの無さには気付かない二人だった。





御礼

「華と修羅」管理人のマオ様に我が儘を言って書いて頂いた、相互記念です。

皆様、無事にここまで辿り着けましたでしょうか...???
管理人は、カウンティングするバージルのあまりのかっこよさに何度も呼吸困難になりました...何度読み返しても動悸が...!!
スロットのダンテ&ちゃんのシーンが何とも可愛らしくて最高です!たまりません…

マオ様、本当に本当にありがとうございました!!!
お読み頂いた皆様も、ありがとうございました!ぜひ管理人と同じように、何度もループしちゃって下さい!