素直になれない






手のひらで盆からすくって



こぼれた一滴、それをすくって



救って





「あー、もー、マジ信じらんないんですけどー。」
グリグリと灰皿にタバコを押し付ける。白い煙りはモクモクと、天井で回るファンに飲み込まれた。
「それで何で一々俺の所に来んだ?。」
トントンとタバコの箱を鳴らす。だが一向にタバコは飛び出さない。
「っち、………んなの、決まってんでしょ?ダンテに聞いて欲しいからよ。」
はグシャリと手の中のそれを潰した。
「で?何で別れたんだよ?俺の前でもあんだけイチャついてただろーに。」
「さぁ?」
ジッポの火を付けたり、蓋を閉じたり。は内心穏やかではないようだ。
(あんたに嫉妬して欲しいからだっつーの。)
「まぁ何にしろ、そのお転婆を治さなきゃ誰も相手にしないぜ?」
喉でクツクツ笑うテノールボイスやその格好いい仕草がを魅了する。
「顔はいいのにな。」
その言葉が多少気に障ったが、構わずダンテの目の前に移動した。
ソファーにだらしなく座る彼の膝に腰を落とす。
「じゃあそんな可哀想な私をダンテ君は慰めてくれないのかな?」
ダンテはの頭に手を回す。艶やかな唇を撫で、ひとすくいの髪にキスを落とした。
熱い視線が交わり、距離が縮む。
「ストップ。」
「なんだよ、お楽しみはこれからだろ?」
不服そうな顔のダンテ。はすっと体を退かせる。
「ごめん、また今度ね。」





『先約があるから。』
そう言い残し、は消えた。2日たつ。
ダンテは彼女の残した吸い殻に手を付けてみる。
「マズ………こんなもん吸ってんのかよ。……………でも。」


でもな


あいつの挑戦的な物言いも


垣間見える女らしさも


ほどばしる色香も


全部、全部


たまらなく……


欲しくなる


壊してしまいたい程欲しくて、あいつの隣にいる誰かを今すぐ消してしまいたくて。
全てを俺のものにしたかった。
でもそれが駄目なことくらい俺の頭にだって解ってる。
何より遊び人なアイツを愛しきる自信はない。


時を重ねる毎に

愛されない事に

俺はあいつを

壊してしまいそうで。


己のうちに秘めた悪魔が恐ろしくさえ感じる。

香った煙はあいつが側にいる錯覚を起こした。





すでに暗くなって2日。
ちょっとダンテが助けに来てくれないかな?なんて期待してみた。けど、そんな訳は有るはず無かった。

「クソ!!俺の何が悪かったってんだ!!!!何で別れるなんて言うんだよ!!!!なぁ!!!!」

(あー……ヤバいな、この縄の縛り方は抜けられない。)
ゴソゴソ、もぞもぞ動きつつは試行錯誤した。
薬を嗅がされ、気づくとすでにこの状態。目隠しに後ろ手で縛られ、ついでに足も縛られている。
そういえば、口にも布があてがってあるかな?
(口が聞けないのに、尋問するなんてトコトン能無しじゃない。)
男は気の済むまでをぶつと、部屋に鍵をかけ出て行った。
「うー。」
(くっそ……仮にも女なのに、加減無し?そんなんだから私に振られるのよ。)
は横たえた体をよじり、ブーツの仕込みナイフを抜き取った。
そこから身を自由にするのは至極簡単な動作で、戻ってきたらアイツには鉛玉をプレゼントするとしよう。
言ってなかったが一応私もデビルハンターだったりする。



「ぐぇ………なんだキサ………ひぎゃあぁあぁぁ!!!!」

聞き覚えのある声が悲鳴を上げた。
(私があいつにやってやろうと思ったのに、先にやるなんてひどいじゃない。)
一体何処のどいつだ、と扉を蹴り開ければ巻き起こる風。
大剣を振るう赤い風。
大気を孕んだコートの下からは筋肉質な体が現れた。


「パーティーの始まりだ。」


あぁ、神様。


今ならあなたを愛してあげます。


二番目にだけど。


「ダンテ……。」
「さっさと帰るぜ?」





「どうしてここが解ったの?」
はダンテの背にしがみつく。ぎゅっと腹に回った手に力が入った。
「まぁ…最近別れたのってアイツだったなと思ってさ……。」
ブロロロロと連続したエンジン音。髪を梳く風の流れ。空気を裂くバイク。
全てが気持ち良かった。
「なぁ……なんで俺がさ、お前の男の大半を知ってんだ?」
(そりゃ………見せてたからねぇ。)
から答えはない。
「お前の友達とやらに、アイツの家を聞いた時に言われたんだけどさ………俺と知り合ってから遊びが激しくなったんだってな?」
(うっ………余計な事を。)
ダンテは段々と勝ち誇ったような声音になる。
「極めつけは……遊んでるように見えて男慣れしてない体。」
ダンテとキスしかけた時に、体が跳ねたのが解ったのかな?
は恥ずかしさに、ダンテの広い背中へ顔を埋めた。


「お互い素直になった方が良さそうだな。」
「うん………そうみたいだね。
……………私さ、ダンテに見て貰いたかった。嫉妬して欲しかった。」


まるで全ての音を排除したみたいだった。人間の耳は聞きたい音だけを大きくして聞けるらしい。今がまさにそれだと思う。
「ダンテが私に少しでも何かの感情を抱いてくれたら幸せだった。でも人間だからその次も欲しくなるの。」



"私欲張りなの"



「何だ……結局は似たもの同士ってか?」
「えっ?」
はクリクリとした目をパッチリ開け、首をかしげた。
「奇遇にも同じくを欲しいって思う人間が約一名ここに……。」
バイクはユルユルと動きを止めた。
「ゴールインだ、続きは中でいこうか?」
ダンテはバイクから降り、に手を差し出す。まるでエスコートでもするかのように。
は躊躇いなくその手を取った。
「いいえ、スタートインよ。」


程なくして、デビルメイクライのネオンは消える。





そう、私はダンテに掬った水を捨ててでも


こぼれ落ちた水を
取って欲しかったの


全てを捨てて、私を選んで欲しかったの。


私を暗闇の底から引き上げて欲しかったの。







御礼

「ゆうぐれ時」の蜜貴様に、相互記念にリクエストして書いて頂いたダンテ夢、一つ目です!(そうです、二つも頂いてしまいました!!!さすがに管理人は欲張りすぎです・笑)

ダ、ダンテの仕種や行動、全てがかっこよすぎます...!!!完全にノックアウトされました........
本来は携帯でいただいた、整然と美しいレイアウトをどう表現したらいいのか…魅力がちゃんと伝わっていればいいのですが;うぅーセンスをください…

蜜貴様、本当にありがとうございました!!!