11月24日。
それは私たちにとって大切な日。
バージルは覚えていてくれてるかな?
カレンダーに赤いペンでおっきい〇をつけているけど……。
間もなくやって来る11月24日。
不安と喜びが入り交じる日。

11月24日まで、あと一日……。




With the anniversary and the bouquet




カレンダーと睨めっこする
11月24日には赤いペンでつけられた赤い〇。
私がつけた印。
バージルは気付いてくれたかな?
いよいよ明日だよ!?
、何をしているんだ?』
バージルの声と共にの肩に手が置かれる。
『わあっ!!』
驚いては奇異な声を出してしまう。
『何をそんなに驚く?』
『いきなり肩に手を置かれて、ビックリするじゃない!!』
見上げるバージルはカレンダーの赤い印をチラリと見ただけですぐに視線をに戻した。
『あれ?バージル、今日は仕事でしょう?』
『出掛けようと思ったらお前が見送りにも来ないのでわざわざ来ただけだが?』
そう言うとバージルはの顎に手を添え唇を素早く奪った。
『……んっ…』
濃厚なキスには悲鳴を上げたかった。
『…はぅ……///』
ようやくキスから解放された時は、もう足がガクガクしては立っていられなかった。
『ご馳走様。では行って来る』
バージルは唇をペロリと舐める仕種をする。は恥ずかしくて耳まで赤くなった。
『もしかすると明日まで仕事がかかるかもしれないが、心配しないでくれ』
『え…?明日までかかるの』
は悲しそうな顔をする。
『なるべく早く帰るよ』
バージルは後ろ髪を引かれる思いでにもう一度軽くキスをすると出掛けて行った。
バージルは忘れてないよね?
聞きたいけど飲み込んだ言葉。
唇にそっと指で触れるとバージルの温もりが残っている。
それは“大丈夫だよ”と語りかけてくるようで………。
、クヨクヨしちゃ駄目!!バージルを信じなきゃ』
はカレンダーの赤い〇を指でなぞると、自分の用事に取り掛かる為部屋を後にした。

だが――――結局その日、バージルは仕事から帰って来なかった。



11月24日夕方。
――――バージルはまだ帰って来ない。
リビングのソファーに座りクッションを抱きしめながらは時計と睨めっこをしていた。
『遅いなぁ~バージル』
今日はバージルが帰ってきたら、とびきりのお洒落をして少し大人なお店に行こうと思ったのに……
クッションを乱暴に壁に向かって投げ付けた。
“Trrrr…Trrrr…”
不意にの携帯電話の着信音が鳴り響いた。
はそれを手に取る。
サブディスプレイには見慣れた「Vergil」の文字が。
慌てて通話ボタンを押した。
『バージル?』
か?すまない遅くなってしまって)
受話器越しに聞くバージルの声には安心するが、同時にムカムカと待たされた怒りが込み上げて来る。
『もう、遅いよぉ~今日が終わっちゃう!!』
電話口にバージルに怒りをぶつけるにバージルはただ謝るだけだった。
『…でもよかった。バージルが無事なら』
(すまない。お詫びと言っては何だが今から出て来れるか?)
『え?』
予想外のバージルの言葉に、は一瞬返答に困る。
(セントラル・パーク入口の噴水前に来てくれ)
『ちょっとバージル!!』
まだ行くとも何も返事をしていないのにバージルは用件をさっさと伝えて、あまつさえ電話を切ろうとしている。
(待っている…)
『ちょっ』
……プーップーップーッ……
電話は一方的に切られた。
『もう――っ!!いつもの事ながら勝手なんだから!!!』
携帯のディスプレイを睨みながら文句が出てしまう。だがの顔は笑っていた。



それから急いで出掛ける支度――――とびきりのお洒落を――――しては家を飛び出した。
途中でタクシーを捕まえバージルに指定された場所に向かった。
さっきから胸の高鳴りが止まらない。
トクンッ…トクンッと脈打つ度、甘い疼きが身体中を駆け巡る。
(私どうかしている?何でこんなに……)
何度気持ちを落ち着かせようと深呼吸を繰り返すが一向に収まらなかった。



PM21:00。
待ち合わせ場所に到着するとはバージルを探した。
セントラル・パーク入口の噴水前の外灯の下にバージルは佇んでいた。
(あれ?バージル着替えたのかな??)
家を出た時は確かにいつもの青いコートを羽織っていたはず……。
ジャケットにスラックスという見馴れないバージルの姿には見とれてしまった。
セントラル・パークの紅葉した木々をバックに、仄かな外灯の下に佇むバージルは景色に溶け込んでいて、まるで一枚の絵画の様だった。
『バージル!』
ゆっくりと近付くとバージルが顔を上げる。
は見慣れているはずのバージルの顔にハッと息を飲んだ。
薄明るい外灯の下に照らし出されるバージルの顔が、見た事のない表情をしていたのだ。

照れているような。
微笑んでいるような。
困っているような。
――――そんな表情だった。

『遅くなってごめんね』
『いや…急に呼び出して悪かったな…』
目を細めてを 見つめるバージル。
優しい眼差しに収まりかけてた胸がザワザワと騒ぎ出す。
『綺麗だ…
『…バージル…///』
面と向かって言われた言葉にの鼓動がドッと早くなる。
『俺の為にお洒落して来てくれたんだな』
『だって…今日は私達が出会って一年目の記念日だから……』
昨年の今日私はバージルに出会った。
出会った時は自分勝手で冷たい人だと思っていた。
でも本当の彼は違った。
とても不器用で自分の気持ちを伝えるのが下手な人。
バージルのそんな所に気付いていくうちに、私は彼に惹かれていった。
『バージルは覚えていてくれた?』
の質問に答える代わりに、目の前には深紅の薔薇の大きな花束があった。
『大切な日に待たせて悪かったな』
差し出される花束。は戸惑いつつもそれを受け取る。
フワリと薔薇の上品な香りが鼻孔を擽っていく。
『…綺麗…いい匂い…』
はしばらくその香りに包まれていた。
『あれ?』
ふと見つめた先に、一本だけ質感の違う薔薇の花があった。
は不思議に思いながらそれを手に取る。
『……え?…嘘…』
それは薔薇の花を模造した形のジュエリーケースだった。
『気付いてくれたか?』
バージルは少し照れながらジュエリーケースから指輪を取り出す。
、俺はお前と出会って誰かを大切に思う気持ちを知る事が出来た』
真剣なバージルの眼差しに心まで見透かされそうで……。

『今は一年だが、二年、三年と…ずっと俺の側にいて欲しい…』

の瞳が大きく見開かれる。
『あ…当たり前でしょう?私以外誰があなたの事を分かると思うのよ』
は素直になれない自分を隠すように大輪の薔薇の花の中に顔を埋める。
『ならば』
バージルはやや強引にの左手をとり薬指に指輪をはめる。
の誕生石ペリドットをあしらった指輪。鮮やかなオリーブグリーン色の『幸福』をもたらすという意味をもつ宝石。
『嫌と言っても離さないからな?』
バージルはの薬指にそっと口付けた。

『幸せにする』

見上げるバージルの青い瞳。真摯な光りを宿しを見つめる。

『私があなたを幸せにしてあげるから…覚悟してよ』

はバージルの瞳を悪戯っ子ぽい笑顔で覗き込むと、バージルの唇を奪った。
の予想外の行動に驚きつつもバージルは彼女からの初めての口付けを堪能した。



それからバージルはを一軒のお洒落なレストランに案内した。
偶然にもそこは、が今日の記念日にバージルと来ようと思っていたレストランだった。
食事を終え次にバージルに連れて来られたのは、五つ星ホテルの最上階のスウィートルーム。
『バージルってエスパー?』
『何だそれ?』
バスローブに身を包みタオルで頭を拭きながらソファーに腰を下ろした。
テーブルの上に用意されていたウェルカムシャンパンの瓶を手に取る。
『だってあのお店私が今日の記念日に来たい、って思っていたから…』
『偶然だな。俺も行きたいと思っていた店だっただけだが』
シャンパングラスを片手に立ち上がりの隣に立つバージル。
『ほら』
にグラスを差し出すバージル。スマートな仕種にはドキッとする。
何をしても絵になり過ぎ。大変な人を好きになっちゃたかも…
眼前に広がるマンハッタンの夜景は、キラキラと輝きまるで光の洪水のようだった。
『バージル―…』
呟きを消すように、バージルの唇がの唇を塞ぐ。
二人に言葉は必要なかった。
この国であなたに出会い恋に落ちた。
初めは恐い人だと思った。
でも本当のあなたは人と触れ合う事が苦手なとても不器用な人だった事に気がついた時、私はあなたに恋をしていた。
そして本当のあなたを知る度に、私はどんどんあなたに惹かれていって……
11月24日はきっと忘れられない日になるだろう。
、どうした?』
唇が離れた後、バージルが心配そうな顔をしてを見ていた。
『…色々とバージルとの事を思い出していたの』
『そうか』
優しくを見つめるバージル。
二人で辿り着いた一つの答え。
それは――――。
二人で共に歩む事。

――――何年も何十年もいつまでも一緒に。






御礼

一周年記念に、ナーナ様がくださったバージル夢…あああ、たっ大変なひとを好きになってしまいました…!!!!!
バージル素敵すぎます!!((((((*´∀`*)))))
セントラルパークに呼び出されたところでもうとろけてましたが、ブーケに誕生石の指輪にレストランにス、スウィートルーム…!!!
豪華シチュエーションに目眩がしそうです。ただでさえバージルでくらくらしているのに…!!(笑)
長い年月をふたりで歩いていけたらと想像するだけで…もうしあわせすぎて泣きました。

ナーナ様、この度は素敵なあまい夢を本当にありがとうございました!!
我が家の宝物にさせていただきます!!!