Welcome You!



それはがダンテ、バージルと一緒に暮らすようになって約4ヶ月経った、ある日のこと……

「いい加減に起きろ!」
ダダダダダン!!!
バージルがダンテの部屋のドアを拳で殴った。
「……るせぇな……」
中からよろよろと現れたダンテに、ばしんとタオルを投げつける。
「早く支度して来い!今日は」
「ハイハイハイハイ、わかってるっつーの」
ひらひらとタオルを振り、ダンテは洗面所へ入って行く。
その背中を苦虫でも噛み潰したような顔で見送り、バージルは階下へ下りる。
今日は、がショッピングへ出掛けている。
遠くまで羽を伸ばして来るといいと送り出したはいいものの、彼女がどこまで出掛けたか分からない上、何時に帰って来るかも予測できない。
だからこそ、バージルはいつも以上に焦っている。
が帰って来るまでにしておかなければいけない事が、山積中。
今日は特別な日なのだ。



ようやく支度が終わったダンテがリビングに現れる。
「景気づけに、音楽でも流すか」
ステレオの電源を入れる。
スピーカーから流れ出すのは、フローリングを振動させるドラム、掻き鳴らされるエレキギターの激しいロック。
「やめろ、頭痛がする」
バージルが露骨に顔を顰めた。
「今日はこれをずっと流せ」
代わりに、違うCDをダンテに差し出す。
そのタイトルを見て、ダンテは不思議そうにディスクを入れ替える。
「Taylor?あんた、こんな趣味だったか?」
「……それは、の物だ」
「あー。やっぱね」
こくこくと納得したダンテにを一睨み。
いつもと違う音楽が部屋を彩る。
不慣れな音楽を聴きながら、バージルはキッチンへ向かった。
「次は、キッシュの用意だな」
「ああ。の好物だもんな」
言うなりダンテは、電話に手を伸ばす。
バージルがぎょっと目を見開いた。
「何をしている!?」
ダンテがきょとんと振り返る。
「見て想像つかねぇ?デリバリーの注文」
「Stupid!」
バージルがぶちんと電話線を引っこ抜く。
「だって、キッシュなんか作れるわけねぇだろ?」
「努力もせずにそれを言うか!」
「食中毒なんか起こしてみろよ、サイテーだぜ?」
「料理本の通りに作ればそんなことは起こらん」
「『材料をグラム単位で計って、手順通りに』?……面倒くせぇ」
ボソッと呟いたダンテに、バージルは片眉を持ち上げる。
は相当喜んでくれるだろうな」
ぴくり。
ダンテの髪が揺れた。
それには無頓着を装い、バージルは冷蔵庫を開いて中を検分する。
「貴様は昼寝でもしておけ。俺が一人で作る」
「おい、誰が手伝わねぇって言った?さっさと作っちまおうぜ!」
勢いよく腕捲りするダンテ。
凝った料理に尻込みするのはバージルも同じ。
彼に体よくノらされたことを、ダンテは知らない。





材料を少々無駄にしながらも、キッシュも無事に何とか形になった。
「うあー、疲れた!」
ダンテはどさりとソファに崩れ込む。
キッチンから持ち出したトマトジュースの缶をぷしゅんと開け、口を付ける。
ごっきゅごっきゅ。
「ぷはーっ、うめぇ!」
「……」
すっかり寛ぎムードのダンテを、バージルは横目で牽制する。
視線に気付き、ダンテは両腕を広げた。
「何だよ?まだ何かあんのか?」
「……ガーベラを」
「あ?」
「テーブルに飾るガーベラが必要だ、と言っている」
今度はダンテが呆れてふーっと溜め息をこぼす。
「あんたさ……花の一本も恥ずかしくて買えねぇのか?」
だん!
バージルは足を踏み鳴らした。
「まだ片付けがあるから出掛けられないだけだ!」
「あーハイハイ」
分かりましたよ、とばかりにダンテは肩を竦める。
バージルの詭弁はともかく、片付けよりは買い物の方がいい。
バイクのキーをちゃらりと手にする。
「色は店員に任せて選んでもらえ。赤ばかり買うなよ!」
「へいへいOKー」
念を押すバージルにうるさそうに手を振り、ダンテは街へ出ていった。



「次は……」
ダンテを追い出すように送り出し、バージルは部屋を見渡す。
「ダイニングか」
真新しい白のテーブルクロスを選び、ばさりと広げる。
ワイングラスが曇っていないか、カトラリーが揃っているか手間取りながら確認しているうちに、ダンテが戻って来た。
その手には、花束以外にケーキボックスがぶら下がっている。
「お前にしては気がきくな」
「そりゃどーも」
バージルは用意しておいた花瓶に水を入れ、ダンテに渡す。
買ってきたどっさりのガーベラを花瓶に移すと、一気にダイニングが明るくなった。
それをテーブルに乗せたところで、ダンテはパンパンと手を叩く。
「これで終わり、か?」
ぐるりと辺りを見回す。
バージルが顎に手を当てながら、同じようにあちこち点検する。
「ああ、後はの帰りを待つだけか」
肝心のそれが、何時になるかは分からない。
ダンテは冷蔵庫から、さっきの飲みかけのトマトジュースを取り出した。
「ま、テレビでも見ながら待とうぜ」
「ああ……」
確かに、ボーッと次は突っ立っていても仕方ない。
二人はリビングへ戻った。
バージルはソファにゆったりと腰掛け、読みかけの本を開く。
ダンテはその反対側でテレビを見ている。
もう何ループ目か、お気に入りのアルバムが流れ続けている。
それなのに肝心の主役は、まだ帰って来ない。





夕刻。

「ただーいまー」

は、大量の紙袋を抱えて帰った。
しかし、すぐに違和感を覚える。
「あれ?」
普段、この時刻になると電気が点けられるはずの玄関ホールは、真っ暗なまま。
(出掛けてる……わけはないか。鍵かかってなかったし)
疑問に首を捻りつつ、リビングに入る。
そこには。

「夕寝中だ……」
本を胸に広げて眠るバージルと、
ソファのクッションを抱えて眠るダンテ。

は知る由もないが、二人とも、慣れない作業と待ちぼうけのダブルパンチで熟睡中なのである。
「……」
気持ち良さそうに眠る二人を交互に見つめ、は音を立てないようにそうっと今日の戦利品を探る。
引っ張り出したのは、青のシャツと赤のTシャツ。
バージルにはシャツを、ダンテにはTシャツをそっと当ててみる。
「うん。似合ってる!」
自分の見立てた通りで、はご満悦。
自分の分の買い物よりも、かなり悩んでしまったのは内緒。
「ふぁ〜あ……私まで眠くなってきちゃった……」
平和な家に帰って来たら、散々歩き回り、遠路を移動した疲れがどっと出た。
「少し寝よう……」
ちょうどダンテとバージルの中間の位置、コの字ソファの真ん中。
はこてんと寝っ転がった。

何とものどかな夕寝。
三人がそれぞれ自分へのプレゼントに気付くのは、まだもう少し先のこと……







→ afterword

携帯版サイトの10000hitsお礼の双子夢でした。
携帯では好きな音楽、好きなアーティスト、好きな花を変更できる仕様にしてましたが、この作品のためだけに入力するのは面倒かなあと思っていて、こちらではデフォルトそのままにしてしまいました。
音楽は管理人の趣味に走ったメロウな女性R&B(Ari LennoxとかMarsha Ambrosiusとか)にしてましたが、雰囲気ありすぎて双子に押し倒されそうだったので、もっと健康的なチョイスにしましt

双子に大切にしてもらえたら、どんなにしあわせか…!!!(笑)
そんな妄想が元になってます。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました!!
2008.8.10