Game of Love・Round 2
「バージル、二段ジャンプできなくて、使いづらいんだけど!」
「いや、ダンテも一撃が軽いからイマイチ爽快感ないよ」
リビングから聞こえてきたとレディの会話に、バージルはピタリと足を止めた。
(何のことだ?)
部屋に入らないバージルに何事か、と続けて入ろうとしていたダンテも首を傾げる。
そーっと部屋の中を覗き、女子組の様子を見てバージルは、先程の会話内容に納得する。
とレディがただいまハマっているもの。
それは、『Street Hunter』という格闘アクションゲーム。
このゲームには、バージルとダンテが出演している。
どういうことかというと……
この前、珍しく四人で街に出て、買い物を楽しんだときのこと。
例によって例の如く、些細な理由で喧嘩を始めた双子は、衆目を引きまくった。
その観衆の中にゲームメーカーのスタッフがいて、やたらと動きのいい二人が目に留まり、『ゲームのキャラクターを演じてくれないか』と声を掛けてきたのである。
当然バージルはかなり抵抗を示したが、ノリノリのダンテとの期待の眼差しに抗いきれず、結局最後は出演することになった。
(ダンテによれば、実際の撮影段階では、バージルは気合い入りまくりで、自分の動きが再現出来ていない!とダメ出ししまくる、かなりのスタッフ泣かせだったそうだ)
こうして困難を極めた撮影も終了し、なかなかのギャラも受け取り、長々と待たされて、ようやくソフトが送られて来たのが昨日。
世間一般には未発売!
そのプレミア感を味わいつつ、とレディは早速テレビを占領中というわけなのである。
『Ridiculous!』-You Lose-
「あぁっ、バージル負けたぁっ」
テレビが告げた結果に、ががばっと頭を抱える。
「これで55勝55敗、完全にタイだね……」
レディがゲーム画面をキャラクター選択に戻す。
もコントローラを構え直す。
「「ダンテとバージルはどっちも使えない!!」」
それぞれ違うキャラに乗り換えようと真剣な目。
が仮面を着けたキザな優男、レディが船長のような服装のタフガイを選び、決定ボタンを押そうとしたところで、
「「ちょっと待て!!」」
バァン!とリビングの扉が悲鳴を上げた。
肩をいからせて入って来たのは、(ゲーム中の自分達が)使えないと貶された、当の本人達。
「おめーらが華麗で軽快なアクションを使えてないだけだろっ」
ダンテがレディのコントローラを奪えば、
「手本を見せてやろう」
バージルがのコントローラを奪う。
ダンテは白い柔道着に赤いハチマキの自キャラを選び、バージルは青い柔道着の自キャラを選ぶ。
-Fight!-
かぁん!ゴングが鳴り響く。
『Rising Dragon!』
『Lunar Phase!』
『Zodiac!』
『Judgement Cut!』
いきなり大技の応酬。
画面の激しい明滅と、バリバリ賑やかな効果音。
「「わああ……」」
呆れ……いや、見惚れる女子組。
「すごいね、何してるかよく見えないよ」
「てかさ、何であんな操作に慣れてんの?」
「あ、現場で練習してたとか?」
「……やれやれ。」
気付けば、あっと言う間にラウンド3。
「1勝1敗!次で決まりだね。せっかくだし勝った方には、賞品でも付ける?」
としては適当に言い出しただけだったのだが。
「「!!!」」
途端、ガチーンと緊張が走るダンテとバージルの背中。
(あーあ……余計な一言を……)
レディはぺしっとおでこを押さえた。
(これは一波乱起こるよ、……)
目の前の双子の闘志が明らかに、先程までと違うのである。
勝利者には賞品。
は特に賞品が何かを言及していない。
つまり、『賞品くれるって言ったよな?』とゴリ押しして、自分の好きなご褒美をねだることが可能ということ。
前回の『おいでよ どうぶつの森』で美味しいところをレディに攫われている双子には、願ってもないチャンス到来なのだ。
どんどん過熱していく激闘を繰り広げるテレビ画面に、がぱちぱちと何度も目を瞬く。
あまりにも激しく画面が明滅するために、涙が出てしまうのだ。
「ねえ、レディ、あれ何の技?」
同じようにレディもぱちぱちと瞬きをする。
「ん〜?もう人間の目で見ることはムリ。画面も処理落ちしてるし……」
カタカタカタカタというボタン連打と、キュルキュル回るスティック。
ダンテはコントローラを縦に持っているし、バージルはコントローラを床に置き、指10本が大活躍である。
この二人、デビルハンターをやめてプロゲーマーになればいいんじゃないだろうか、と女子組はこっそり思った。
いよいよ、互いのライフゲージもあと僅か、次の一撃が勝負を決めるところまで来たとき。
ガッシャーーーン
ゲーム機が音高く床に落ちた。
「「ああーーーっ!!!」」
慌てて駆け寄る。
見れば、1P側のダンテのコントローラは左にすっぽ抜け、2P側のバージルのコントローラは右に吹っ飛んでいる。
……熱中するあまり、二人は画面のキャラに合わせて身体ごと動いたのである。
「レースゲームで頭を傾けるとかならともかく、こんなの信じられない!」
本体を壊され、ぷりぷり怒る。
ダンテが慌てて彼女に駆け寄る。
「オレはともかく、バージルはずっと身体傾いたまんまゲームしてたぜ!それが気になって、ついオレも」
「何だと!?落ちた本体の角度からして、貴様のコードを引く力の方が強かったのは明白だろう!」
ぎゃんぎゃんと、大人げなく責任のなすり付け合いが始まってしまった。
「……もういいよ……」
ががくりと肩を落とす。
「レディ、お夕飯の買い出しに行ってこよう?今日、一緒に食べていくでしょ?」
「あ、うん」
しょんぼり落ち込んだ寂しい笑顔のに、レディは思わず大きく頷いた。
とぼとぼ歩き出すを見送った後、後ろで呆然としている双子を厳しく振り返る。
「わたしたちが帰るまでに何とかしておきなさいよ!」
ビシィ!と人差し指で突き刺すように二人を示す。
とどめにギロリと鋭く睨みを利かせた後、レディはすぐにの後を追い掛けて行った。
「何とかって……」
「どうしろと?」
壊れたゲーム機を前に、途方に暮れる大人二人。
「やっぱ新品を買え、ってことだろー?」
残骸を摘まみ上げるダンテの言葉に、バージルが深々と溜め息を吐いた。
「こんな玩具のために大枚をはたけというのか」
「仕方ねぇだろ!半分出せよ?」
「……」
さりげなく視線を逸らすバージル。
「おいっ!」
思わずダンテが胸倉を掴み掛かったところへ。
「また喧嘩中なの?」
艶やかな声が玄関から響いた。
「トリッシュ?何しに来たんだ?」
ダンテが眉を顰めた。
「随分なご挨拶ね」
現れたのは、トリッシュ。
さらさらの金髪を邪魔そうに背中へ払うと、何やら重たそうな荷物をドスンとバージルに手渡す。
「……何だコレは」
「見たところ、今のあなたたちに必要な物だと思うけど?」
細い指で、荒れたリビングを指し示す。
「あのゲーム。とレディが壊したとは思えないもの」
「っつーことは!」
ダンテがトリッシュの荷物をがさがさと開けていく。
出て来た物は、今しがた二人が壊した、まさにそのゲーム機。
そして、丁寧にも『Street Hunter』ソフト付き。
「すっげぇ!」
「驚いたな……」
「感謝なさい!」
ツンと顎を上げるトリッシュ。
大喜びで本体を取り替えるダンテに、しかし、バージルは腕を組んで首を傾げる。
「……いくら何でもタイミングが良すぎるだろう」
そのセリフに、トリッシュが振り返る。
「ホントはね、昨日持って来ようと思ってたんだけど」
「昨日?しかし、このソフトは……」
「まだ売ってないんでしょ?知ってるわよ」
にっこり。
その妖艶かつ自信たっぷりの笑顔に、バージルは嫌な予感を覚えた。
「まさか、とは思うが……」
「そのまさか、ね。——私も出てるの」
「すごい!!トリッシュだ!!!」
トリッシュも迎え、5人で賑やかな夕食を取った後。
早速ゲーム機の電源を入れたに、トリッシュが秘密のコマンドを教えた。
そしてその通りにボタンを押すと、登場キャラクターが増え……何とそこに、トリッシュもいたのである。
すっかり機嫌も直ったは、もちろんトリッシュを選択してゲームを始める。
トリッシュ本人が横に控えてコマンド指南などしているので、始めたばかりにも関わらず、なかなか見応えのある展開になっている。
「ホントに知らなかったの?」
呆れ顔のレディに、ダンテが頭をぶんぶんと振った。
「知ってたらこんな驚いてねぇよ……」
だいたい、撮影中に一回も顔を合わせていないというのは、いくらトリッシュが隠しキャラ扱いだとしてもおかしいのではないか。
微妙な気分の双子はさておき、はすっかりゲームにハマっている。
「ねぇレディ!レディもゲームしようよ!トリッシュ、すっごく強いよ!」
「今行くよ〜」
呼ばれたレディが、からコントローラを受け取ってトリッシュを操作する。
それはいいのだが。
((対戦相手に、何故にオレ達を選ぶ……))
トリッシュの強烈なハイヒール踵落としや2丁拳銃乱射が、コンピュータ操作のバージルやダンテに見事にクリーンヒットする。
さっきから何度も何度もトリッシュに屈している双子。
見ているだけで、何だか痛々しい。
(もしかしなくても)
(まだは怒っているんだな……)
改めて、先程の子供っぽい喧嘩に恥じ入るバージルとダンテであった。
更に後日。
トリッシュ操作をすっかりマスターしたが、次に選んだのは仮面のキザな優男。
その素顔がカッコいい!と言い出したに慌てた双子が、『いやアイツ変態ぽいだろ!?』『あの奇声は下品すぎるだろう!!』と必死で仮面男を貶したのだとか、それでまたがむくれたのだとか……それはまた別の話である。
- → afterword
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ゲームネタ第二弾!でございました。
ちなみに、最初の主人公とレディのセリフは、そっくりそのまま私の感想。
もちろん今では、バージルが二段ジャンプできないのも、ダンテの一撃の軽さも、こよなく愛してます。
バージルのトリック系をもっとスタイリッシュに使えたらなあ。
ダンテの手数の多さもスタイリッシュに活かせたらなあ。
……と、まだまだカッコいいデビルハンターには程遠いです。
それでは、ここまでお読みくださいましてありがとうございました!