とあるゲームショップ
「お」
「む」
一つのゲームソフトに、同時に手が伸びる
「何だよ、やっぱりコレか?」
「……決まりだな」
残忍な笑みを浮かべる男二人
彼らの犠牲になるのは、勿論……




Game of Love・Round 3




「帰ったぜー、
「お帰り、ダンテ、バージル!」
ぱたぱたとスリッパの音高く、は買い出し組の双子を出迎える。
「頼まれたものだが、なかったぞ」
バージルが紙袋を差し出す。
「ええ!?あのパズルゲームって、そんなに人気だったかなあ?」
「ま、代わりにもっと面白そうなの買って来てやったからさ。やってみようぜ」
「んー。なかったものは仕方ないもんね。で、何を買って来てくれたの?」
ダンテの慰めで気を取り直し、袋を改める
しかし、すぐにその表情がコチンと固まる。

「……デビルハザード4……?」

タイトルくらいはも知っている。
確か、悪魔に操られたゾンビや謎の生命体を銃でバンバン打ってストーリーを進めていく、ホラーアクションだ。
年齢制限がかけられたパッケージ、おどろおどろしいタイトルロゴ。
いかにもこれは怖いゲームですよ〜、というオーラを放っている。
しかも。
「何でこんなコントローラまであるの?」
が指摘したのは、拳銃の形をしたコントローラ。
「カッコいいだろ?こっち使った方が絶対盛り上がるって!」
ダンテが早速ガンコントローラをゲーム機に繋いでいる。
は、隣りのバージルを見上げた。
「バージル、よく反対しなかったね?」
普段の彼なら、ガンコンなど莫迦らしい!とでも言って、ダンテを諌めそうなものだが。
バージルが少し目を逸らした。
「奴が店で騒いでいたから、他人のフリをしていたのでな」
「その顔では他人のフリもなにも……」
「おーい!早くやろうぜ!」
ぶんぶんと手を振るダンテ。
すっかり準備万端のようだ。
苦笑しながら、が彼の横に腰を下ろす。
その間も、ダンテははしゃいでガンコンを構えている。
「やれやれだね、ね、バージ……あれ?」
自分の右隣りに座るだろうバージルに声を掛けようとした瞬間、ぱたりと部屋の照明が落ちた。
夕方なので真っ暗ではない。ないのだが……
「電気消したの?」
横に腰掛けて来たバージルを非難がましく睨む。
バージルがフンと鼻を鳴らした。
「たかがゲームが怖いのか?」
その挑発的な態度。
はムッと頬を膨らませた。
「怖くありません!」
「ならば問題ないだろう」
「よっしゃスタート!」

ずがーん!
デヴィォウハザァアドフォオウ!
派手な銃声とタイトルコールと共に、そのゲームは始まった。

襲い来る、ゾンビ犬。
「ぎゃあ!」
鎌を振り回す、凶悪な悪魔ゾンビ。
「わぁ!」
主人公を一飲みにする、巨大毒ヘビ。
「ひぃ!」
それら全てに、は腰が引けまくり、いちいち大袈裟に驚きまくりである。
そんな中。
とはうって変わって、楽しくて仕方ないといった様子なのが、彼女の両脇を固めるダンテとバージル。
二人とも口元の笑みを隠しきれていない。
なぜならば。

「ひゃあ!」
……じりじり。
「うわぁん!」
……ぴたり。
「いやー!」
……ぎゅう。

が悲鳴を上げる度に、二人はさりげなく彼女に密着していくのだ。
広いソファなのに、完全に真ん中しか使われていない。
普段ならば絶対に許されない、その密着っぷり。
しかしながら、現在はそれどころではない。
ふと、バージルがダンテに目線をやった。
それに応じ、ダンテがにやりと頷く。
、操作変わって」
今の今まで手にしていたガンコンをくるくると回して渡す。
「ぇえ!?無理だよ!」
が両手でぱたぱたとNOの意思表示をする。
しかしダンテは引かない。
「オレの人差し指、もう吊りそうなんだ」
手をぷらぷらさせるダンテを見て、仕方なくはガンコンを受け取った。
が、ゲームを始めようとはせずに、右のバージルを見つめる。
「ば、バージル変わって……?」
バージルはむっつりと横を向いた。
「俺は銃は好まない。知っているだろう?」
「そんな……」
必死の懇願も一刀両断。
渋々、は画面のポーズを解いた。

ぐわぁおぅっ
いきなり襲いかかって来る化け物。

「ぃやぁー!」
半ば画面から目を離しながら、はガンコンのボタンを連打する。
ズガガガガガ
無駄打ちしまくったが、とりあえず画面の中の化け物は息絶えていた。
「はぁはぁ……」
本気で肩で息をする
もうこうなれば、さっさとゲームをクリアするしかない!と腹を括る。
「つ、次はどこ行ったらいいの……?」
その言葉を待っていたとばかりに、バージルが身動き開始。
「先程手に入れた鍵があるだろう?」
「うん……」
「それを、そう……その扉に使うんだ」
操作に一生懸命なは気付いていないが、バージルとの顔の距離、わずか5センチ。
つまりは、耳元で囁いている状態。
「わぁあっ、何か来たよぅ!」
ビクンと跳び上がったの肩に、今度はダンテがここぞとばかりに腕を回す。
「落ち着け。まずはロックオン」
「こう?」
「OK、そのまま……JACKPOT!上手いじゃねぇか」
「うぅっ……」

((楽しすぎて、狂いそうだ))
とは、双子の胸中である。



同時刻。
「ちょっともう、どうしてここの家の電話はいつまでたっても通じないわけ?」
バターン!と荒々しい音を立てて、レディが颯爽と玄関の扉を開けて現れる。
しかし、いくら待ってみても、誰も出迎えに来る様子はない。
「いないの〜?」
眉を顰めてリビングを覗き込み……レディは溜め息を吐く。
ダンテにバージル、それに、しっかり三人とも在宅中。
その三人の前には、大ヴォリュームで繰り広げられているホラーゲーム。
もうずっと繋がらない電話。
そして、を中心に、超密着しているダンテとバージル。
何が起こっているのか、レディは一瞬で理解した。
(電話のコードを抜いてまで、邪魔されたくないのね……)
そこまで計画しつつイチャイチャ(一方的ではあるが)しているのだから、ここで今割って入ったら……仕返しが怖い。
(……ごめん。今度埋め合わせするから!)
救出作戦、中止。
レディは再びそっと玄関から外へ出た。



……何時間、経過したのだろうか。

「やったー!!」

の声が響いて、バージルは目を覚ます。
どうやら隣りの体温が心地よくて、いつの間にやら眠ってしまったらしい。
しかしどうしたことか、やわらかい肩にもたれていたはずの頭の下にあったのは、何故かソファの固い肘掛け。
膝にはしっかりと毛布が掛けられていて、これはが気を遣ってくれたに違いない。
妙な体勢で寝ていたため、体中がポキポキと変な音を立てて軋む。
「……?」
ぼんやりと働かないまま視線を巡らせると、まだソファの真ん中にいたと目が合った。
「あ、起きた?バージル。ダンテも」
にっこにこでガンコンを振ってみせる
やはりバージルと同じく、逆側の肘掛けで伸びていたダンテがむにゃむにゃと目を擦る。
「悪ぃ、オレら寝てたのか?」
「うん。二人とも肩に頭乗せてきちゃって重かったから、悪いと思ったけど、ソファの方にもたれてもらったよ」
「それは……」
「すまないことをしたな……」
せっかくの時間だったのに!
自己嫌悪で不機嫌な二人とは対照的に、は上機嫌である。
「ね!見て見て!クリアしたんだよ!今2周目なの!」
「「え?」」
指で示された先には、確かに、スペシャルコスチュームを纏った主人公が派手な武器を構えている。
「もう、リオンってカッコよすぎだよね!ゾンビなんて全然怖くなくなっちゃった!」
「「!?」」
うっとりとムービーを見ている
「あ、ちょうどいいところだから、顔洗って来ようっと。ダンテ、操作替わってて」
ぽいっとガンコンを渡すと、爽やかにバスルームへ向かう。
最早、微塵も恐怖を感じていない様子のに、双子はガクリと肩を落とす。
ホラーゲームで怖がらせて密着作戦、不完全燃焼。
いい加減、懲りてもよさそうなものだが……。

「次はサイレントシティ、行ってみるか?」
「美形は出て来ないのだろうな?」
「4は危険だったような気がする。あとはオッサンか女の子」
「ならば、4以外だ」

……残念ながら、この双子に限っては、少しも懲りていないようである。






→ afterword

ゲームネタ第三弾!でございました。
このギャグシリーズは、書いていてものすごく楽しかったです。
また何かネタを見つけたら、続編ができるかもしれません…

ここまで双子にお付き合い下さいまして、どうもありがとうございました!