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「うわ……あれ、大米博物館の?」
「スタンソード大学の客員教授でもあるんだろ?」
「すげー……!」
「お近づきになれないかな?」
「ばか、おれらじゃ無理だよ」

まとわりつく周囲の無遠慮な囁きはヒールで打ち消し、はにっこりと目を細めた。
「この度は本当にお世話になりました、グッドマンさん」
「いやあ、こちらこそ」
グッドマンと呼ばれた初老の男は、の表情にあっさりと相好を崩す。
「貴女ほどの方にしっかり鑑定してもらえれば、満足よりありません」
そう言ってグッドマンは大事そうに目の前のガラスケースの縁を撫でた。
中に厳重に守られているのは──世にも珍かな、ブラックダイヤモンド。
約2000カラット、大きさにして子供の拳ほど。その途方も無い価値を持つ原石に、は再び微笑を湛える。
「私どもこそ、貴重なデータの数々を取ることが出来て……」
そう言うと、はポートフォリオをはらりと広げた。
収められたレポートには原石の重量や成分など多岐に渡る分析データが丁寧に綴られ、石をあらゆる方向から撮影した写真も数多く添えられている。
「博物館のお役に立てるならこれくらい」
資料に目を走らせると、グッドマンは満足そうに口元の髭を扱いた。
「本来ならそちらに寄贈すべき物なんでしょうがねえ」
「いえ」
ファイルを閉じて、はガラスケースに視線を移す。
「正直、当館にはあれほどの価値ある物をお預かりする余裕はございませんもの」
「またまた、ご冗談を!」
はははと大きく腹を揺らし、大富豪はふと声を落とす。
「それで、さん。……あの件については……」
急に真面目になったグッドマンの声音に、もきゅっと口元を引き締め、ひとつ頷いた。
「ご心配なく。セキュリティに関して、私どもも絶大な信頼を置いている人物をご紹介いたしますわ」





がグッドマンの元を立ち去った翌日。
ずらりと部下を従えて、一人の男が邸宅を訪れた。
現れた軍団の先頭を堂々と歩く美丈夫の姿に、さしものグッドマンもやや押され気味に出迎える。
「これは……ようこそ。ええと、貴方が……」
「バージルだ」
バージルと名乗った男はほんの少しだけ頷いて(彼なりの会釈なのだろう)、コートから黒革のパスケースを取り出した。
IDを見てグッドマンは目を大きく見開いた。
「警部……でいらっしゃるのですか」
「何か問題でも?」
バージルは鋭い視線で切り返す。
あまりの眼光の鋭さに、グッドマンはぎくりと肩を揺らし、ぶるぶると顔を振った。
「いえいえ!さんが太鼓判を押す通り、お若いのに余程優秀なのですな」
バージルは軽く溜め息をついて、用済みとなったIDを再び胸元に仕舞う。
「能力と年齢に関係はない」
「はあ……そうですが」
何故に二回りも年下の男にこうまで気押されなければならないのだろうと首を捻りつつも、ともかく彼の機嫌を損ねてはいけないと、グッドマンは後ろへ下がった。
それを受け、警部とその部下はすぐに仕事に取りかかる。
ガラスケースが置かれているのは展示室。
グッドマンはかなりの蒐集家らしく、今回のブラックダイヤモンド以外にも価値がありそうな品物がさりげなく飾られている。
ただしどれも金に飽かせて集めた物に過ぎないようで、統一性はまるでない。かてて加えて、偽物すら大仰に並べられている。
(気付いていてわざとなのか、それともグッドマンには真贋を見極める目もないのか?)
バージルはそれらを無表情でゆったりと眺めて回る。時折、後ろの部下に声を掛ける。
最後に本日の主役のガラスケースの前に立つと、特に念入りに図面と見比べた。
「今は館に監視カメラは?」
突然問われ、グッドマンはしゃきりと背筋を伸ばした。
「いや、ありませんな。ケースに警報機は付いておりますが」
「それで今までよく無事でいられたものだ」
苦み走った口調で呟くと、バージルは手ずから書き込んだ図面をひらりと見せる。
「この廊下に3メートルごとに一台、カメラを」
「……ほう」
「当然、このケースの部屋にも二箇所」
「ふむふむ」
「それから警備を24時間体制にすべきだ」
「……ふうむ」
僅かな不満を滲ませた館主の態度に、バージルは図面を素早く閉じた。
「それしきの警備費を悩むくらいなら、『黒き至宝』は手放すのだな」
「はあ、失礼いたしました」
強気の牽制に、全くこの若者は油断ならないとグッドマンはこっそり胸の中で溜め息をついた。
しかし、年は若くともこうまで考えが回る利口な人物なら、確かにの言う通りに信頼できると言えよう。
グッドマンは手のひらを胸の前で重ねて揉んだ。
「バージルさんの仰る通りにしましょう」
項垂れるように同意した館の主に、バージルはようやく少しだけ表情を緩める。
「警備員もこちらで紹介しよう。それから、システム初日にはまた確認に来る」
また来るのか。とは言えるわけもなく、グッドマンはぎこちない作り笑いを浮かべた。
「よろしく頼みますよ」





バージルの指示通りに監視カメラも効果的に設置され、警備員のシフトなど細かい決め事までしっかりと彼自らがチェックを入れ……全ての準備は整った。
「これでブラックダイヤモンドは未来永劫に無事と、そういうわけですな」
セキュリティに大枚をはたき、その分だけ安心感を得て、グッドマンはようやく人心地ついた。
バージルが名刺のような物を彼に手渡す。
「万が一何かあれば、警備室からこちらに連絡が通るようになっている」
不吉な情報にグッドマンは表情を曇らせた。
「お世話になりたくはないですなあ」
「念の為だ。必要あるまい」
「さすが警部。用意周到ですねえ。頼りになります」
胡散臭い言い草に、バージルは無表情の下に不快を押し込めてグッドマンを振り返る。
「後は警備関連、こちらの細かい打ち合わせだけだ」
「はあ、では私はこれで……」
館の主なのにその場を追い出された感は否めない。
ともあれ怖い警部を更に怖くさせたくはないので、グッドマンはひよひよと警備室を後にした。



小一時間ほど経過した後、バージル警部は館を離れた。
もうあまり関わり合いたくないとはこれまた口には到底出せず、グッドマンは必死の愛想笑いで警部一行を送り出した。
彼を乗せた黒のセダンが大通りに走って行くのをしっかり見届け、グッドマンは警備室に戻る。
しばらく追い出されていたので、その状況を一応自分の目で見ておきたかったのだ。
中には本日初の夜勤を任された警備員が、きりりとモニターを睨んでいた。
「様子はどうだね」
主は私だと言わんばかりに胸を逸らし、警備員に声を掛ける。
まだ若い相手は、背筋をしゃんと伸ばして椅子から立ち上がった。
「は!こちらは問題ありません」
答えると、すぐに仕事に戻る。
初日とは言え、そのきっちりとした働きぶり。
「やはり警部は怖いんだねぇ」
直接の雇い主はグッドマンだが、紹介したのはバージルだ。余程言い含められているに違いない。
うんうん分かるよ、と警備員の肩に手を乗せる。
「まあ、確かに近寄りがたくはありますが」
グッドマンを見上げ、警備員は手元のマグカップを持ち上げた。
「警部は僕にコーヒーを差し入れてくれたんですよ。ちゃんと名前も覚えていてくれたし」
ただ怖い人ではありませんよ。
爽やかに笑った警備員に、グッドマンは「そうかね?」と曖昧に頷いた。





同日、深夜。
グッドマン宅の外壁、その深い暗闇に溶け込んでいた黒い影が、不意に動いた。
軽快な動きは楽しげ、そして物音がしないために、まるで上質なサイレント映画の一場面のよう。
影──ダンテは素早く右に左に上に下にと丁寧に確認し、そして突然大地を蹴った。
前方を塞ぐ堅固な門はその高さおよそ3メートル……バスケットゴールほどのそれを、彼はふわりと飛び越した。
見事に門の内側への着地も、猫のようにしなやかさ。
侵入した庭のよく手入れのされた芝生の上に立って、もう一度辺りを窺う。
目指す明かりを見つけると、彼はにいっと笑って走り出した。



予め持っていた鍵を裏口の鍵穴に差し込む。
そっと右へ捻れば、かちゃりと解錠を告げる音がした。開くと分かっていても、やはりほっとする一瞬。
自然に口元を緩ませてダンテはノブをゆっくりと回した。
(次は……)
左右に目を走らせ、頭に叩き込んで来た見取り図を思い出す。
この先は警備室前の廊下。
勤勉な監視カメラが侵入者を阻むべく、常時目をきらりと光らせている。
無駄なく容赦なく計算されたカメラの角度に、死角はない。当然、侵入した自分の姿は映ってしまう。
ダンテももちろんそれを知っている。
カメラと目が合うと、彼はぱちりとウインクしてみせた。
どうせ死角がないのならと、彼は堂々と廊下のど真ん中を歩く。
そうして警備室の近くに到着すると、一応念のために腰を屈めて窓からそうっと中を覗いてみる。
この事態に立ち向かうべき警備員は、机に突っ伏していた。
それを確かめると、侵入者はますます大胆になった。
立ち上がり、元気よく警備室に入る。
警備員の状態を調べれば、彼はぐっすりと眠っていた。
手元のコーヒーカップと、もうほとんど残っていない中身を見ると、ダンテは気の毒にと喉で笑った。
「あいつがコーヒーを差し入れるなんて、おかしいと疑わなきゃ駄目だぜ」



監視カメラも警備員もその役目を果たしていないのなら、怖いものなど何もない。
安全確認が済んだ警備室を抜けて目的の展示室へと、難なくダンテは忍び込んだ。
「こんな簡単なセキュリティ……網膜チェックとか赤外線トラップとか、室内温度変化に二酸化炭素感知とか、もっとこだわって欲しいもんだぜ」
忍び込む方の分際で好き勝手言う。
彼としてはイーサン・ハントを気取りたかったのだが、ともあれ、仕事が簡単なのは結構なこと。
ぐるんと展示室を見回すが、そんなことをせずともお目当ては中央にある。
ダンテの狙いは、もちろん──
「これがブラックダイヤモンドか」
薄っすら差し込む月の光を乱反射している、美しい黒の貴石。美しい、が。
「こんな石っころに何億ドルもかけるなんざ理解できねぇな」
どっちにしても持ち合わせはねぇけどさ。
むっつりと唇を尖らせ、手袋を嵌めた手でガラスケースを開けていく。
三箇所に鍵がかけられているが、そのどの鍵も持っている。
更にダンテはもっと凄い物も用意してきている。
バックパックから取り出したのは、目の前の原石と瓜二つの『レプリカ』。
「さすがは学者様の手作り」
並べて見ても双子のようにそっくりで、ちっとも違和感がない。
うっかりしたら、すり替えるこの場で間違えてしまいそうだ。
慎重に本物と偽物を入れ替えて、ダンテはほっと息をついた。
ごろんと無造作な扱いをしているが、手元には確かにブラックダイヤモンド。
「頂いてくぜ」
ケースにしっかり錠を下ろしてしまえば、何事もなかったよう。
「じゃーな、レプリカのお嬢さん」
人差し指と中指で、ダンテはレプリカにキスを投げた。



仕事の仕上げは、警備室にて。
まだすやすやと睡眠中の警備員、その横のモニターをあれこれ切り替える。
「オレが出演した映像は……と」
目的の監視映像を見つけると、その録画されたDVDと持参してきたDVDを入れ替え、キーボードを二、三叩く。
「よし」
ENTERキーをぱちんと叩いてから、腕時計できっちり時間を確かめる。
「5、4、3、2、1……」
ぷつ。
いくつかのモニターが真っ暗になった。
記録媒体を入れ替えてそれをフォーマットしている最中は、カメラは映像を記録することができない。
これに要する時間はあと20秒ほど。
あとは、このわずかな猶予に館から脱出するだけ。
やり残したことはないかと周りを確認すれば、哀れな警備員が目に入った。
「あんたは何も悪くないぜ。ただ相手が『オレ達』で、運が悪かったな」
おやすみ。
ぐっすり眠る警備員に挨拶する余裕さえ残し、ダンテはその場から逃げ出した。
こうして彼は、力ずくでガラスを割って警報を鳴らすことも、ガラスケースから石を盗み出したという痕跡を残すこともなく、監視映像の記録すらも塗り替えて、グッドマン家のブラックダイヤモンドを手に入れたのだった。





「お待ち申し上げておりました、スパーダ様、エヴァ様ご夫妻」
両手を揉んでにこにこな男に、迎えられたふたりは親密に身を寄せ合った。
ここは外の喧噪から遮断された、三ツ星ホテル。
そのフロントを預かるクラークに、女の方がふわりと髪を揺らして微笑みかける。
「今回も楽しい旅行になるといいのだけれど」
「もちろん、いつものお部屋を用意してございますよ」
「それはよかった」
男が軽く頷いたのを受け、クラークは夫妻の背後で出番を待つポーターに目配せした。
「どうぞ素敵なお時間を」
「ありがとう」
手続きが全て終わると、女はするりと彼の腕に自らの手を絡める。
「行きましょう、あなた」
「ああ」
回された彼女の手にやさしく触れ、銀の髪の男は愛しそうに瞳を細めた。



ベルボーイに荷物を運んでもらい、『夫妻』はすっかり寛いだ様子で部屋を見渡した。
広々とした間取りに、質のいい家具、さりげなく彩りを添える花々。
「何かございましたら、いつでもお申しつけ下さいませ」
「滞在中はよろしく頼む」
男が紙幣を渡すと、ボーイは丁重に部屋を出て行った。
ふたりだけが最高級のスィートルームに残される。
そうして彼らはロマンティックな部屋に見合った熱い視線を交わした──わけではなく。
「ああ。ここのチェックインって、いつも疲れるのよね」
エヴァことが、どさりとベッドに座り込んだ。深く沈む快適なマットの上で、大きく伸びをして肩を回す。
「全くだ」
スパーダことバージルがソファに座って脚を組んだ。
ベッドサイドのチョコレートをぱくりと摘み、はドアを見る。
「お待ちかねの『ルームサービス』はまだかしら」
「もうそろそろのはずだが。あいつの事だ、遅れているかもしれんな」
「そうね」
図らずも二人同時に壁の時計を見上げたとき、扉がこんこんとノックされて来訪者を告げた。
「ハローハロー。ルームサービスのお届けですよ」
掛かった声は、部屋に案内してくれたベルボーイとは程遠い、陽気すぎる声。
「待ちくたびれたわ、ボーイさん」
呆れながらが扉を開く。
「久しぶりね、ダンテ」
「よ」
制服をかっちり着込んで従業員になりすましていたのは、が呼んだ通り。ダンテである。
「いっつもオレだけこんな面倒な仕事ばっかり、不公平じゃねぇか?」
「ダンテが大人しくチェックインしてくれるなら、別にスパーダ役はバージルじゃなくってもいいのよ?」
「なら次はオレで頼むよ、honey」
喉元の苦しいボタンをぶちぶちと外す呑気なダンテを、バージルがきつい目で睨んだ。
「あれはあるんだろうな?」
「もちろん、ここに」
本物のルームサービスを装って押して来たカートの上の銀食器に、気取った仕草で手のひらを向ける。
バージルが素早く蓋を持ち上げた。
中身を確かめて、は満足そうににこりと笑みを浮かべる。
「本物ね」
偽物はもっと重い。
ブラックダイアモンドの周りに三人、吸い寄せられるように集まる。
「途方もない価値だぜ」
「丸ごとならね」
の目配せに、心得ているバージルがカートに乗せられたフルーツナイフを手に取った。やわな刃をつらつらと眺める。
「刀があればもっと楽なんだがな」
「ホテルに出入り禁止になってもいいなら持ち込むのね」
「まあ、ナイフで充分だ」
僅かに奥歯を噛み締めて、バージルはナイフを一閃した。
いや、それはには一閃にしか見えなかったが、石はばらばらと細かく刻まれて既に原型を留めていない。
「お見事」
がぱちぱちと手を叩き、賛辞を贈る。
それからそっと小振りな欠片を摘み上げた。
欠片と言ってもそこは希有なダイアモンド……市街地に家が建つ。
いかほどか値踏みしながら、はすこしだけ遠い目をした。
「これでグッドマンに潰された施設も建て直せるのね……」
「あいつ、相当溜め込んでたみたいだな」
ダンテが腕を伸ばして、小指の先ほどの大きさの石を突つく。
「利権漁りに横流し。人身売買に関わってるなんて噂もある。こんな綺麗な石を買うには汚すぎるお金ね」
きりと下唇を噛んだに、バージルは慰めるような視線を送った。
「今回のことで一矢報えたはずだ」
「……そうね」
「なあ。コレ、貰っていいか?」
ダンテが大きめの石を指で弾いた。
「別にいいけど?でもダンテ、いっつも現金が楽でいいって言ってたじゃない。石の換金は面倒だって」
元々儲け自体はきっちり三等分。
石だろうが換金後のお金だろうが、受け取りが早くなるか遅くなるかだけで、ダンテの取り分そのものに代わりはないのだが。
何を今更と首を傾げたに、ダンテはちょっとだけ照れて石を無造作にポケットに仕舞った。
「どうしても急ぎで直してやりたい教会があるんだ」
「修道女?」
の言葉に、ダンテは目を吊り上げて、バージルはうっかり吹き出して顔を逸らした。
「いいんじゃない?今はそんなお堅い時代でもないんだし」
「違うって!!」
からかい続けるに、ダンテは地団駄を踏んで抗議する。
「違う!この前怪我したときに世話になっただけで……大体、オレが好きなのはおま「そんなことより」
ダンテのあわよくばの発言を、バージルが寸での所で妨害した。
「お前の仕事に抜かりはなかったんだろうな?」
そういえばと、もダンテを見上げた。
「そうそう、聞きそびれてた。仕事は順調だったのよね?」
何とか怒りを収め、ダンテは心外だと眉を聳やかす。
「大丈夫だ。の作ったレプリカも本物と見分けが付かないし、オレの姿もビデオには残ってない」
「警備は?」
「ぐっすりオネンネだったぜ」
よし、とバージルは腕を組んだ。
「あの警備員は真面目だから、居眠りしたことを詫びて来るかもしれないが。……この俺に」
「万全ね」
三者それぞれ、自分の仕事を完璧にこなせたようだ。
ダイアモンドを簡単に分けたところで、今回はもうお開き。
普段はそれぞれの持ち場で大人しくしているだけで、互いに連絡を取ることはまずない。
次に三人が揃うのは、また悪どい者の金品を狙うとき。
それまでは全くの他人状態だ。
──『解散』を言い出せないまま……三人に微妙な空気が流れる。
「……どっちか、私の部屋に来る?」
ちゃらり。
の手の中の鍵がかろやかな音を立てた。
涼やかな音の情熱的な誘いに、ダンテとバージルの息が止まる。
「「……お」」
どちらも『俺が』と続ける寸前、
「なんてね。またいい仕事があったら会いましょう」
実にあっさりと、は手のひらをひらひらと蝶々のように翻した。
「それじゃあ。おやすみなさい」
とどめの仕上げは、思わせぶりなウインク。
ぱたりと扉は虚しく閉ざされて、残る二人は同時に脱力して肩を落とす。
それぞれの手の中には、「今夜こそ」と決めて用意していた、自らの部屋の鍵。
「……次こそ」
「決着だな……」
彼らが本当に手に入れたいのはブラックダイヤモンドでも莫大な金でもなく、という世界でたったひとつの宝石。
価値のつけられない『adamas』。
それをダンテが盗み出すのが先か、それともバージルが捕らえるのが先か──
「早く次の目星つけろよ」
「お前も手伝え」
「分かってるさ」

……三人が再会する日は、案外近いのかもしれない。







→ afterword

この双子夢は無理矢理に、「華と修羅」様の三周年のお祝いに捧げます。どれだけ遅いお祝いだという話ですが、どうか捧げさせてください…!(土下座)
本当におめでとうございます!!!
三年前にデビルに、そしてマオ様に出逢っていなかった自分に全力でダァーイです。本当に…(涙)
その分これからも、どうぞよろしくお願いいたします!!!

そんなこんなで、『三人』で活躍(?)するお話でした。
ダンテは怪盗っぽくするつもりだったのに…あれ???そしてこれは『夢』なのか…;
「adamas」はギリシャ語でダイアモンドの語源、その意味は「征服できない、懐かない」だそうです。(頼れるWikipediaより)
ということで、双子には頑張ってほしいです(笑)
ダンテに盗まれ、バージルが逮捕に来るとか最高のルートではないかと思うのですが。(殴)

それでは…未熟な作品にも関わらずここまでお読み下さいまして、どうもありがとうございました!
2009.1.29