ギルドを出てからずっと、バージルもも無言だった。
いつもは自分達が話さなくてもダンテが何かしら口火を切ってくれていたから、ふたりきりだと会話が始められないのだ。
(いいお天気ですね、なんて白々しいかなぁ)
燦々と降り注ぐ太陽の光にてのひらを翳してみる。
(──別になんにも喋らなくてもいいか)
別に居心地が悪いとか、気まずいとかいう訳ではないのだから。
指を擦り抜けた日差しが目を焼く。
「わ」
「どうした?」
バージルがぴたりと足を止め、振り返った。
「あ。いえ。太陽を直接見ちゃいました」
眩しかったですと付け足しながら、自分は何を口走っているんだろうとは照れ笑いを浮かべた。
ちかちかする残像が目線を動かす度について回る。
振り払おうときょろきょろしていたら、思いがけない近さにバージルが入って来るのが見えた。
「──危なっかしい」
す、と隣に並ぶ。
バージルの背の高さ分だけ、に影が落ちた。
(あ──)
やわらいだ光に、ようやく目が落ち着きを取り戻していく。
ぐるりと見回すのをやめてしゃっきり目を開けると、いつもの呆れ顔のバージルが映った。
目が合うとほっとする。彼は微笑んでさえいないのに。
「戦いの最中に視界を奪われたらどうするつもりだ?」
「う……すみません」
和んだのも束の間、また怒られてしまった。
依頼を一緒にこなす度、バージルには何かしら注意されている気がする。どれも反発してみようもないことなので、自分の腑甲斐なさに落ち込むばかりだ。
本当に、しっかりしなければ。
「あの」
はきりっと唇を引き結んだ。
「もうこんな下らないことで注意されないように頑張ります」
ぐっと拳を固めて、バージルを見上げる。
まっすぐまっすぐ、しっかり決心が伝わるように。
どれだけそうしていたのか──ふっとバージルが目を逸らした。
「──おまえ、足を引っ張らない自信があるんだな?」
「はい?」
足を引っ張らない……自信はない。
けれどそんな馬鹿正直に答えてしまったら、バージルは失望してしまうだろう。
だが、でも、しかし。
あれやこれやと最適な回答を探すうち、先にバージルが口を開いた。
「これからも俺と組む覚悟はあるのかと聞いている」
これからも。
(バージルさんと?)
バージル自身のことは、まだよく分からない。
ダンテより口数が少ないとか、ダンテより消極的であるとか──ダンテと比べることでしか、差異が分からない。それはとても勿体ないように思う。
さっきさりげなく影を作ってくれた、そんな一面を青いコートの内側に隠しているならば。もっともっと知りたい。
「バージルさんに許してもらえるなら」
叱られたり、嘆かれたり。たまには誉めてくれることもあるのだろうか。
知りたい。
バージルは僅かに顔を傾けた。
「大金を稼ぐのがどれほど大変かしっかり理解した上で、だな?」
「それって、バージルさんが言うと何だか……」
いつだったか、ダンテが彼をからかった台詞。
くすくす笑いながら口にすると、バージルは一瞬むっと眉を寄せ、それから人の悪い微笑を刻む。
「そうまで言うなら、もう俺の前で気絶するなよ」
肌を這ってくるような声。
はぞくりと身震いした。
(もしかして、答えを間違えた?)
引き返そうとしても、もう遅い。
「来い、
くいっと手のひらで呼ばれる。
重ねてみたそれは意外とあたたかい。
「……バージルさん」
「何だ」
「いい天気ですねぇ」
「だから──おまえは真剣味が足りないと」
「ごめんなさい」
が謝ると、バージルはやれやれと見下ろしてきた。
やっぱり彼と目が合うとほっとする。今の彼は、ちいさく微笑んでいた。