(don't)let it snow



一面の銀世界。 事務所は真綿でデコレーションした模型風。夢のような景色だが、これは現実。
触れればぺしゃりと崩れるやわらかな雪は、今や玄関前から道まで完全に埋め、往来を拒絶している。
「へっ……くしょい!」
スコップを担いで隣に立つダンテが、豪快なくしゃみに背中を丸めた。
「大丈夫?」
「寒ぃな。とっとと終わらせちまおうぜ」
「うん」
今年幾度めかの雪かき。
力がいる仕事だが、ダンテはもちろん雪の重みなど物ともしない。踊るように身軽に動いて道をつけていく。
「頑張りすぎると筋肉痛になるよ?」
「まさか!これくらいじゃ何ともねぇって。行くぜ、Million」
「あ。」
ダンテの必殺ミリオンスコップが放った白弾は、こちらへ歩いて来た人物にざかざかと命中した。
「俺以外だったらどうするつもりだ?」
青いコートの半分が真っ白け。被弾してしまったバージルは、きつくダンテを睨んだ。その怒りたるや、まぶされた雪を溶かしそうな程である。
「悪ぃ」
「全く……」
バージルの押すスノーダンプを仲間に加え、三人は作業を再開した。
スコップ係のダンテは、さっくりと塊を切り出して、ずしゃっと遠くへ飛ばす流れ作業を繰り返す。
さっくり、ずしゃっ。さっくり、ずしゃっ。さっくり……
「わ、また降ってきたよ」
翳した手に、ふわふわと最初の白い結晶が到着した。
誘われるように見上げれば、次から次へと先を競うように降り出している。
「あーっ、キリねぇ!」
ついにダンテは痺れを切らした。スコップを投げ出して、傍らの山に威勢よくダイブする。ばふっと籠もった音を立て、ダンテ型に雪がへこんだ。
「あぁ〜、ダンテ兄!」
「……おまえはやるなよ?」
ちょっと面白そうだとわくわくした矢先、バージルに肩を押さえられる。
「や、やだな、やらないよ」
「ならばいいが」
「ま、オレがこうするけどな」
言うが早いかダンテが思い切り彼女の手を引っ張れば、
「ぷぁっ!」
どさぁ!ダンテの横にもうひとつ、大きな人型が出来た。
「お見事!」
「何が見事だ馬鹿者!」
ダンテの後頭部に雪玉を投げておいて、バージルは埋もれて身動きの取れない妹を助け起こす。
「大丈夫か?」
「うん。……ダンテぇい!」
自分を道連れにしたダンテに、両手で掬った雪をぶあっとかける。
「っぷ!やったな!」
顔面真っ白で、今度はダンテが反撃に出た。軽く丸めた雪玉を彼女の膝に投げる。
「痛っ!このぉ〜」
「ヘイ、かかってきな!」
……たちまち、その場が雪合戦の舞台となってしまった。
「おまえ達、いい加減に……」
一人取り残されたバージルも参戦しかけ——危うく踏み留まる。全員が遊びに興じたら、一体誰が雪かきをすると言うのか。
「……。」
こんなとき長兄を苦しめるのは、不条理な責任感。
恨めしいとは思うまいと、楽しそうに騒ぐ二人を視界からシャットアウトし、バージルは黙々とダンプを走らせる。
事務所前は、どちゃどちゃ崩れて無惨な山と、整然と美しく固められた道に二分されていった。



翌朝。
「へぇっく」
「しょーん!」
案の定と言うべきか、くしゃみ二重奏を奏でる弟と妹。
「自業自得を体現して楽しいか?」
バージルは心底呆れ、呆れながらも放っておく訳にもいかず、ちゃんと看病してやった。
が、その一週間後には彼が風邪を移されて……。
原因の複雑な頭痛・発熱がバージルを襲う。
「……兄を廃業するにはどうしたら良い……?」
「んあ?何か言ったか?」
「バージル兄、栄養たっぷりオートミールだよー。美味しくはないけど許してね!」
元気だが、細やかな気遣いなど期待できない二人。
仕方なく看病されるバージルが願うことは、ただひとつ。

(もう雪は降らないでくれ……)







→ afterword

日記に載せていた短文です。

そろそろまた雪のシーズンがやってきますね。
今年も同じように双子と雪かき妄想ができるなんて、本当に幸せです(*´∀`*)

それでは短いお話ですが、お読みくださってどうもありがとうございました♪
2011.11.24