──信じられない。
目の前にどんと鎮座しているのは、わかりやすい形の爆弾だった。
『おーい、捜査班?どうした?何か目ぼしいモンあったか?』
コントロールルームから指揮を執るダンテの声がインカムに届く。
「は、い……」
かすれ声で返事すると、ダンテではない溜め息が聞こえた。
『何か発見したら逐一報告しろと言っているだろう』
解析班のバージルだ。
「すみません。……爆弾を、発見しました」




Keep Talking and Everybody's on Fire




突如入った報告に、室内がざわついた。
「ち……また面倒な仕事が入りやがって。バージル」
「分かっている」
ダンテがボディアーマーを纏い、バージルは透明ボードにありとあらゆる爆弾解除マニュアルを貼り出した。
横目でその準備を確認すると、ダンテはインカムを外してマイクからに呼びかけた。
「いいか、何も触るんじゃねぇぞ。そのままにしてろ。俺が行く」
一瞬、向こうの返答の間が空いた。
『……いえ。無理です。もう時間がありません。タイマーは6分を切ったところです』
「な……」
彼女の現場へは、例えダンテが力を解放して急行したとしても、たっぷり15分はかかる。
『このまま私が解除します』
「だめだ、危険すぎる。他に解除経験者は?」
『このチームには誰も。全員救助担当です。それに、散開しての捜査中でした』
「ダンテ、どけ」
バージルがインカムを着けた。
「……ったく」
ダンテも顔を振って、再びアーマーを脱いだ。
「タイマーはあと何分になってる?」
『5分です。爆弾にはワイヤーやボタンのモジュールが、全部で2……いえ、3つ見えます』
バージルが腕時計のタイマーをセットした。
「よし。爆弾にシリアルナンバー、もしくは何らかの暗号コードのようなものはあるか?」
『コード……コード……そんなの、どこにも……』
焦るに、腕まくりしながらダンテが呼びかける。
「落ち着け、Darling。必ず俺達がおまえを助ける。箱の裏は?」
『4色に光る菱形のボタンがついたモジュールが1つあるだけです』
「OK。右の側面は?」
『電池が……単1電池が2本ついています』
バージルがボードに走り書きする。
「電池ね。次、左側面」
『ありました!シリアルナンバーです!読みます!OVARB5CMD。繰り返します!OVARB5CMD』
「Good. そのまま、菱形のモジュールの解除に当たる。サイモンセッズだ」
「命令ゲームか。あんた好きそうだな、バージル?」
「ふざけるな。今、何色のボタンが光っている?」
『青です!青を押すんですか?』
「待て。青ということは」
バージルはボードのマニュアルを目で追った。
「赤を押せ」
『押しました。今は青、赤と光っています』
「赤、青と押せ」
『はい。今度は青、赤、黄色です』
「赤、青、緑」
『赤、青、緑。次いきます。青、赤、黄色、緑……あ』
「そうだ。赤、青、緑、黄色で押せ」
『解除できました!』
「Well done honey!次はどうする?」
「ワイヤーとボタンだったな。ボタンの方を解除する」
『了解です。ボタンの色は白、表面に「Detonate」とあります』
「文字が「Detonate」でバッテリーが2本……まず、ボタンを押したまま待機」
『はい。ホールドしてます』
「次にカウントダウンタイマーを見ろ。タイマーのどこかに『2』が表示されたら、ボタンを離せ」
「4……3……離しました!解除できました」
「Cool! 今、」
時間を訊ねかけたダンテにバージルが自分の腕時計を投げた。
確かに残り時間が減って来た今、意識させて余計なプレッシャーをかけるのはよろしくない。
残り2分。
バージルがボードからワイヤー関連のマニュアルを剥ぎ取って手元に並べた。
「残りはワイヤーモジュールだったな」
「Sweet heart、頑張れ。ラストだ。ワイヤーは何本ある?」
『1、2、3……5本です。全部で5本』
「色を上から言え」
『白、白、赤、青、黒です』
「白、白、赤、青、黒だな」
『はい』
バージルがマニュアルを人差し指で示した。
ダンテも確認し、頷く。
「OK、最後の大仕事だ。いちばん下の黒を切ってくれ」
『……はい』
ごくり。
その場の誰もが息を飲んだ。
バージルが時計を見る。
残り45秒。
『切ります』

ぱちん

インカムの奥、ちいさな切断音が聞こえた。続いて、

ピピーーー

「……解除音だ」
バージルが息を吐いてインカムを外した。
司令室も盛大な拍手に包まれた。
「Beautiful!よく頑張ったなBaby!」
ダンテも満面の笑みで、マイクに向けて拍手する。
……が。
「……おーい?」
返事が聞こえない。
バージルも眉を寄せてインカムを着け直した。
「どうした?」
ボリュームを上げても、さあさあと空気の流れるような音しか聞こえて来ない。
ダンテとバージルは顔を見合わせた。
「爆発なんかしてねぇし、物騒な物音もなし」
「……緊張が切れたか」
ダンテは大きく腕を伸ばしてストレッチしつつ、壁から車のキーを取った。
「今日のMVPを迎えに行って来る。ついでにメシ奢ってやるよ。あんたは」
「俺は」
「あー。悪ぃ。行かねぇよな。じゃ」
「いや、俺も行く」
「え?」
はよくやった。泣いたりパニックを起こされたりしたら、助けられなかったからな」
「だな」
緊急車両に乗り込むと、いくら無敵の双子とは言え、疲れがどっと湧いてくる。
バージルは彼にしては珍しくシートに深く凭れた。外に流れる、いつもと変わらない街の景色を見るともなく眺める。が身を呈して守った光景。
──今日の仕事は本当に危ない綱渡りだった。
「彼女はよくやった。……が」
ダンテも隣の意を汲んでおおきく頷く。
「次からは内勤。だろ?」
「そうだ」
「署が賑やかになりそうだ」
「お前は現場だがな」
「はあ?何でだよ」
「誰が爆弾を解除するんだ?本来お前の仕事だぞ」
「まあな。……じゃあせめて、指示はにさせろよ。あんたの指示より断然面白くなる」
「ほう。こちらも楽しくなりそうだ。お前を助けられなかったらすまんな」
「おい!仕事は真面目にやれよ!?」
「同じ台詞を返してやる」
口喧嘩は止まらないまま、車が現場に到着した。
何台ものパトカーや救急車が集まって検証が行われている。問題の爆弾も既に回収されたようだ。
道の端のベンチに、毛布に包まれて横になっている隊員が見えた。今日の英雄だ。
口をすこしだけ開けてすやすや眠るの姿を認めて、上司二人はやっと胸を撫でおろしたのだった。







→ afterword

4ヶ月ほど拍手お礼として置いていた短文、爆弾解除ゲームを遊んでいるうちに降ってきたネタでした。
日記には双子がタッグ組んで解除に挑んでもらいましたが、こちらでは双子に指示を出してもらいました。
お二人なら、5分と言わず、もっとお声を聞いていたいですよね!
それではお読みくださって、どうもありがとうございました♪
2019.7.28〜2019.11.23