バージルは、日本の祭りや花火大会を見たいからだと言った。
でも今回の旅行の理由は、それだけじゃないと思う。




Fiesta, Siesta




飛行機で半日かけて移動し、バージルとは成田空港へ到着した。
前回日本に入国したときはひとりだったのだな、とバージルは不思議に思う。
今は隣に、騒がしくて子供のようにはしゃぐが──大切な恋人が、傍にいる。
運命とは分からないもの。
瞬きした次の瞬間に何が起こるか、誰にも想像できない。
「バージル」
がくいくいっとバージルの袖を引く。
「あれ、お父さんの車」
示された先には、見たことのある車が迎えに来てくれていた。
「これで満員電車は回避できたな」
「一度は乗ってみたらいいよ。あれも日本の姿だよ」
くすくす笑い合っていると、クラクションが鳴らされた。
「おーい、、バージル君。こっちこっち」
「お父さん。ただーいまー」
「二人とも、お帰り。みんな待ってるよ」
「お腹空いたよー」
は相変わらずだなぁ。アメリカで痩せたかと思えば、そうでもないし」
「だって痩せてたら心配するでしょ?」
「まあなー」
にこにこと会話を弾ませる親子を、バージルは静かに見守った。
いつも元気に見えるだが、今は本当にリラックスしているようだ。
(やはり、日本に来てよかった)
前回はあれほど心沸き立った観光。
今回も一応の名目なのだが、バージルの中では既に優先順位が入れ替わっている。
想像していたよりもずっと、自分は過保護らしい。
情けなく感じても、日本語を話すの表情はやはりどうにも魅力的。
(やれやれ)
重いスーツケースを軽々引く自分を、我ながら現金で単純だと自嘲するバージルなのであった。



アメリカに居たせいか、祖父母の家がやたら新鮮に映った。
それでも、家を囲む木々の深い緑は日本を発ったときとまるで変わらない。
湿度のせいですぐに汗をかいてしまうこの暑さも大袈裟だが懐かしく思えて、不快ではなかった。
はふと隣を見上げてみる。
「バージル、暑くない?」
そう訊ねてはみたものの、実際にはバージルの顔には汗ひとつ浮かんでいない。
表情通り、バージルはあっさりと頷いた。
「快適とは言わないが、心頭滅却火もまた涼し、だな」
「ああ……そう」
日本人より武士めいているなーと呆れる。
「あ、ミーコ!」
が指差した先には、祖父母が飼っている猫。
にゃーんと返事をし、とてとてと縁側をこちらに歩いて来る。
「おまえに会うのも久しぶりだな」
バージルが足下に擦り寄ってきたミーコを抱き上げた。
なぉん、と喉の奥から甘え声を出し、ミーコはぺろりとバージルの頬を舐めた。
「人懐っこいわけでもないんだけど、バージルには馴れたよね」
「猫でも優しい人間とそうでない者は分かるのだろう」
「で、バージルはどっち?」
「にゃーん」
「優しい人間だそうだぞ」
「ええー?ミーコにまたたびのワイロでも渡したんでしょー」
「あんたたちー。そんな暑いとこにいないで、おあがんなさい」
猫を囲んでじゃれあっていると、祖母がにっこり現れた。
「あ、おばあちゃん。今行くー。バージル、玄関で靴脱いでね」
「それくらい分かっている」
「この前の仕返しです」
「……いつの話だ……」
そんなに根に持っていたのかと苦笑しつつ、バージルは靴を脱いで丁寧に揃えた。
教えたわけでもないのに自然にそんな行動を取れるバージルに、は内心かなり感心した。
(基本的にお行儀がいいんだよね)
セレブっぷりといい、実は相当育ちがいいんじゃないだろうか。
──バージルの過去については、は何も知らない。
一度訊ねたときに、家族はいないと視線を逸らされたことがある。
しつこく聞くのも何だか憚られ、それきり話題に触れてはいないが……いつか時が熟したら話してくれるだろう。
恋人の家族も知らないなんて、普通ではないかもしれない。
が、バージル本人を好きなんだから、それこそ彼がどこの馬の骨であろうと関係ない。
はバージルを信じている。
居間で寛いでいると、祖母が冷えた麦茶を持って来てくれた。
「今日の夕食は流しそうめんですよ」
「やったー。今日暑いからちょうどいいね」
がばんざいと手を上げた。
「ナガシソウメン?」
バージルは何のことかさっぱり分からず、と祖母を交互に見比べる。
その間も、気に入ったらしい麦茶は片時も離そうとしない。
「んー。口で説明するよりも、実際に見た方が早いと思うな。楽しいよ」
「楽しい……?」
どうして夕食のメニューでそんな形容詞が出るのか、疑問は深まるばかり。
「気になるなら、早めに支度しようかねえ」
祖母がころころと笑った。
「そうしよ!お腹空いた!」
が元気よく立ち上がる。
「庭で準備するから、バージルはミーコと縁側でのんびり見てて」



それからのことは、バージルにとって驚きの連続だった。
まず、青々とした竹が丸々一本、どこからともなく運び込まれて来たのが始まり。
「バージル君の日本刀ですっぱりやってほしいもんだねえ」
「バカ者!あの素晴らしい刀を流しそうめんの竹に使うなど、このわしが許さん!」
冗談も合間に挟みながら、の父と祖父が竹を適度な長さに切る。
そして今度はそれを真ん中から二つに割った。
邪魔な節はとんかちで外す。
長さの調節が済むと、が竹の中をごしごし洗った。
「うーん、いい竹だね」
綺麗に洗い終わると、竹は角度をつけて滑り台のように固定された。
「今回は豪勢に、長く接ごうか」
の父が竹を三つ接続した。
全体の長さは4メートル程。
ここまで見ても、何が何やらバージルにはさっぱり分からない。
「さ、おそうめんと薬味は準備できましたよ」
「おつゆもね。ほら、バージルさんもこっちへいらっしゃい」
の母に呼ばれ、バージルが庭に出る。
「あとこれは、お客様用の器よ」
黒いスープが入った竹の器と割り箸を渡され呆然としていると、が笑顔で傍へやってきた。
「バージルは特等席ね」
「特等席?何だそれは」
「上流のこと」
「……?」
「こっちこっち」
袖を引かれるまま、竹の滑り台の高い方に連れて行かれる。
はバージルの横に立ち、母と祖母は下流につく。
全員の配置を確かめると、祖父が威勢よく腕まくりをした。
「準備はいいか?」
「はい!」
、一体これは……」
「流すぞ〜」
の父が竹に水を流した。
「!?」
「ほらほらバージル、ぼーっとしてたら食べ損ねちゃうよ」
「……なっ?」
食べ損ねるとは何だ?と呆気に取られるバージルの目の前の竹に、何とそうめんが流れて来た。
上を見れば、の祖父が少しずつそうめんを水に乗せている。
(何だ!?)
「いっちばんのり〜!」
がするりとそうめんを掬う。
「こら、バージル君に譲りなさい!」
「お手本見せたの!……ね、そうめんを流すから流しそうめん。夏の風物詩なんだよ」
「……」
あまりにも予想外すぎた光景に、バージルはひたすら立ち尽くした。
そうめんを流すから流しそうめん。
名前の意味は分かる。分かるが……
(何故、わざわざ流す必要がある……?)
、バージルさんはお箸使えないんじゃない?取ってあげたら?」
母の言葉に、は隣を見た。
「バージル。取ってあげようか?」
掛けられた言葉にハッと我を取り戻し、バージルはすっと首を振る。
「いや、いい。大丈夫だ」
「大丈夫だってー」
バージルがそう答えることなど分かっていた。
気遣いされたり庇われたりするの嫌いだもんね〜、とはうんうん頷く。
それはただの負けず嫌いとも言うのだが。
「……」
針に糸を通すような目線の鋭さで、バージルは狙いを定める。
普段はあまり使わない箸、それに何故だか流されているそうめんのつるりとした感触。
かなりの強敵だが、ギブアップという単語はバージルの辞書にない。
見よう見まねで水流に抗うように箸を入れ、先程ののようにそうめんを掬いあげる。
ぴしゃん、と耳を打つ涼やかな水音。
夕暮れの残りの太陽に透ける、白いそうめん。
始めは奇抜すぎてさすがについていけないと思ったバージルだったが、確かに普通に食べるよりもこの方が雅やかではあるなと思い直した。
一度コツを掴んでしまえば後はスイスイと箸を進める。
「やるねえ」
割り箸を流したり、そうめんを地面にばらまいたりなど予想された派手な失敗は一度もなく流しそうめんを堪能するアメリカ人に、一家から感嘆の拍手が起きた。
「バージルバージル。そうめんは音立てて食べていいんだよ」
静かに箸を運ぶバージルに、がそっと声を掛けた。
そういえばそうだったか、とバージルは手元の器に目を落とす。
……が。
「いや、やはり無理だな」
「そうだよね。向こうでは下品なんだもんね」
苦笑したバージルに、もこくりと同意した。
二人の向かい側では、派手にズズズッと麺を啜る祖父。
「……食欲失せたらごめんね」
「あそこまで豪快だと、いっそ粋なんじゃないのか?」
「バージル君。薬味にも挑戦するかい?」
二人の会話にの父が割り込んだ。
和食に興味津々なバージルは、茗荷や葱、モロヘイヤにオクラ、刻みのりに胡麻など次々と器に投入してみては舌鼓を打った。
勧められるままに胡麻だれ味のスープにも挑戦し、これはこれで美味いと箸が進む。
こうしてバージルにとって初となる「流しそうめん」は、最初は訳が分からずに度肝を抜かれたものの、最後には美味で風流な想い出となったのだった。





現在、はとても窮屈な思いをしている。
「おかあさん……くるしい……」
「我慢しなさい。折れそうなくらいの腰が魅力的なのよ」
「ばーじるはそうでもないよ、たぶん……ぐぇ、きつい……」
「四の五の言わない!……はいっ出来た!いってらっしゃい!」
「うぅ……」
ぱしんとお尻を打たれて、ついでにうちわと巾着を持たされて、和室を出る。
いつものように元気に歩けず、一歩一歩の足捌きが難しい。
大きく足を踏み出せば、はしたなく割れてしまう裾。
浴衣である。
「やっぱり似合わないよね……」
今夜バージルと花火大会に行くということで、は何としても彼に浴衣を着てもらいたかったのだが、そう提案したに対してバージルは「当然おまえも着るんだろうな?」と念を押し……二人仲良く浴衣を着る羽目になったのである。
覗いた鏡に映る自分はいつもの自分ではないようで落ち着かない。
(でも、バージルの浴衣姿は気になる!)
祖父が着付けを教えていたはずだが、もう終わっただろうか。
待ち合わせは玄関先。
「バージル。いる?」
がらりと開けた玄関の扉の向こう、視界いっぱいに銀色が飛び込んで来る。
「!」
……二十回くらいは瞬きしただろうか。
銀鼠色の浴衣に紺色の帯を片ばさみでぴしりと締めたバージルの、その姿。
あまりに凝視しすぎたせいか、バージルが背を向けてしまった。
袖の中で腕を組む自然な動作までも似合っていて、とにかく一層……
「……三割増し。」
つい呟いたに、バージルがすっと振り返った。
「その言葉、久々に聞いたな」
今ではもうバージルも、その意味を知っている。
が気持ちの化学反応を起こした後にどういう意味を込めて使っているのか、ということさえ。
──悪い気分ではない。
「遅くなる。出掛けよう」
ぼーっと心ここにあらずなを促し、バージルは先に立った。



縁日の賑やかさは、バージルをひたすら圧倒した。
普段は冷静さを失わない彼が珍しく、辺りを興味深そうにきょろきょろしている。
そんな様子を微笑みながら見守りつつ、は自分も屋台に夢中だった。
「じゃがバター、焼きとうもろこし、お好み焼きにたこやき焼きそば、チョコバナナにりんごあめー!でもやっぱり最初はわたあめだよね!」
「胃は一つだということを忘れるな」
一息で食べ物を列挙するにバージルがしっかり釘を刺す。
しかしはけろりとバージルを見上げた。
「手は四つだもん」
「俺を数に含むな……」
ぐったりしながらも、バージルは既にりんごあめを持たされている。



立ち並ぶ屋台はそれぞれ魅惑的な香りを自慢していて、でなくても確かに買い食いをしたくなる。
「かき氷食べようか?」
暖簾を見つけ、はくるりとバージルを振り返った。
「俺はいらない」
「……」
すげなく断られてしまい、はすこしだけ肩を落とした。
(バージルは覚えてないのかなぁ)
前回、彼が初めて日本に来たときのこと。
まだお互いにちょっと他人行儀だった頃……縁側でかき氷を食べた。
(私にとっては想い出の味なんだけどな)
男の人にはあまりそういう感慨がないのだろうか。
「じゃあ、私だけ食べる」
その場にバージルを一人残して、は屋台に並んだ。
「ひとつ下さい」
「あいよー。味は?」
「えっと」
「コレ。」
「バージル!?」
「ブルーハワイね、毎度!」
青いシロップをたっぷりかけてもらって、バージルはかき氷を受け取った。
ご自由にどうぞと書かれたプラスチックのスプーンを二本、手に取る。
「なんだ、やっぱり食べたくなったの?」
「これから花火大会だというのに、頭痛を起こされたら困るからな」
バージルが皮肉っぽくを見下ろす。
差し出されたかき氷のカップに、はざっくりスプーンを入れた。
「素直じゃないなぁ。私はいちごミルクがよかったのに」
「文句があるならやらんぞ」
「買ったのは私です!もう、仲良く半分こしようよ!」
「半分、な……」
どう見ても違いすぎる二人のスプーンの勢いに、バージルは笑いを堪えた。
しゃくしゃくといい音を立ててかき氷を食べるに、そう遠くない過去の彼女の姿が重なった。
下らないと思いつつものいちご味のかき氷の赤が気に入らなくて、自分のブルーハワイのかき氷と取り替させた、あの日。
あのときからもう、自分はを独占したいと思っていたのだろうか。
「おいしかった!」
ぼんやりするバージルの横ではぺろりとかき氷を平らげ、ごちそうさまと手を合わせた。
「前のかき氷の方が美味しくなかったか?」
ふと疑問を差し挟んだバージルに、がぽかんと目を見開く。
(忘れたわけじゃなかった?)
細かいバージルに限って忘れることはないだろうと思っていたものの、やっぱり嬉しい。
は思わずバージルに腕を絡めた。
「そりゃあ、あのかき氷は喫茶店のおばちゃんの年季入った一品だもん!」
「シロップに年季が関係あるのか?」
「……あるかもよ?」
「アメリカに戻る前に、また食べに行くとしよう」
自分からくっついてきたに、バージルはやわらかく微笑んだ。



あれこれと買い食いしたが次に見つけたものは、同じく縁日には欠かせないとある夜店。
「バージル、あれあれ!射的!」
カウンターの上の空気銃と、その奥に所狭しと並べられたぬいぐるみや駄菓子、玩具の類。
くいくいと袖を引いてくるの説明を受けずとも、この店が何を提供しているのか分かった。
バージルは、はあと息をつく。
「……あれをやるのか?」
が心外だと振り向いた。
「バージルがね」
今度はバージルが意外そうにを見つめる。
「俺が?」
「うん。拳銃の扱いは得意でしょ?」
「……アメリカ人がみな銃を使えると思っているなら、とんでもない間違いだぞ」
「え。そうなの?映画では庶民でもバンバン撃つのに」
「映画は映画だ……。とにかく、俺は銃は好まない」
頑として首を縦に振らないバージルに、がむくれる。
(まあ……バージルが嫌だって言うならしょうがないか)
それでも未練は残って、目の前できゃあきゃあと「あれ取って!」「仕方ねーな」などとじゃれているカップルを羨ましそうに見る。
の視線の先を追ったバージルが、再び深々と溜め息をついた。
「……今回限りだぞ」
「わーいやったぁ!バージルありがとう!」
むくれ顔から一転、途端に大輪の花のような笑顔を見せるに、ついつい呆れ顔も引っ込んでしまう。
「俺も甘いな」
「何か言った?」
「いや。……それで、どれが欲しいんだ?」
「えっとね……」
駄菓子は食べたらなくなっちゃうし、できたら飾るもの。
「あのクマのぬいぐるみがいい!」
ぴしりと指差された先のぬいぐるみに、バージルが眉を寄せた。
「あんな寝転がってだらだらしているクマがいいのか?」
「可愛いでしょ?」
「まあ何でもいい」
店主に小銭を支払うと、バージルは渡された空気銃にコルクを詰めた。
そのまま狙いをつけようとしたが、ふと隣の男を見れば、身を乗り出してぎりぎりまで近づいている。
別に撃つ姿勢に関しては決まりはないようだ。
少しだけ考え、バージルもカウンターに肘をついた。
まるでビリヤードでキューを使うような体勢でバランスを取りながら、一発目。
(まずは足)
パン!
バージルの狙い通り、コルクはぬいぐるみの足に当たる。
クマは大きく動いたが、下へ落ちるには至らない。
「ああ。残念、次頑張って!」
後ろからがぱちぱち拍手する。
どうやら今の一撃をただの失敗だと思ったらしい。
(全く)
何故こんなに真剣にクマの重心について考えなければいけないんだと、自分でも呆れる。
が。
「あーあ、何にもとれなかったね」
「射的なんて景品とらせないようにできてんだよ」
手ぶらで帰って行くカップルと、それから自分の背後でわくわく見守っているのことを思えば、少々力が入ってしまうというもの。
──俺はに惨めな思いはさせない。
慎重に第二撃目の狙いをつけていく。

はバージルをどきどき見守っていた。
銃が嫌いだと言っていたからどうなることかと思ったが、カウンターに身を預けた姿勢までサマになっている。
視線はついつい、端正な横顔や、合わせから覗く喉元、袖から伸びる腕に引き寄せられてしまう。
(バージル、やっぱりかっこいいなあ)
残念ながら初撃は外れてしまったが、ちゃんとクマには当たっていたし、惜しかった。
ぬいぐるみが取れなくても、バージルが自分のわがままに付き合ってくれただけでも嬉しい。
パシン!
二撃目が、乾いた音を立ててぬいぐるみに当たる。
再びクマの足はずずずっと移動した。
それでもまだクマは台の上。
「あ……あー、惜しい!」
大袈裟に騒ぐに、バージルは涼しい顔で三撃目を準備する。
(次で仕上げだな)
つい、とある言葉が脳裏をよぎったが、ふるふる顔を振ってそれを追いやる。
──『奴』ならばあっさりと口にしてかっこつけてみせるに違いないが。
バージルはふうと大きく息をついて、空気銃を構える。
最後の最後で狙うのは。
(頭)
パスン!
既に台から支えが落ちかけていたクマは、重い頭を一突きされて見事にころんと下へ落ちた。
「やったぁ!すごいすごい〜!!」
「お客さん、やるねえ。これ取った人はあんたが初めてだよ」
店主が苦笑しながらぬいぐるみをバージルに渡す。
だけでなく、周りも(さっきのカップルまで)ざわついている。
「あと四発あるが、何かまだ取るか?」
どら焼きのような色のそのクマをに手渡し、バージルが景品台を振り返った。
「じゃあじゃあ、あの黄色い鳥と、白いコグマ!それでこのシリーズが揃うの!!」
興奮で頬を真っ赤にしている
「仕方ないな。取ってやる」
ぽんと彼女の頭を軽く叩いてから台に向き直り……バージルはまたもや真剣にぬいぐるみの重心と狙い所を探っていった。



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