「どうせこんな甘いワイン、バージルはあんまり好きじゃないよね」
お子様向けみたいな味だし!
そう言い訳をでっち上げ、はぐいぐい杯を重ねた。
ロゼワインの甘くやわらかな飲みやすさも手伝って、ボトルはあっという間に空になった……





「ん……」

さっきから、がんがんと物音がする。
何だろう。とにかくうるさい。そして、頭が痛い。
「起きたか」
ぴたん。
何か冷たいものが額の上に乗せられた。
ひんやりと体温を奪うその心地よい感触に、はぼんやりと目を開けた。
「ばーじる……?」
滲む視界には、むっつりと不機嫌顔のバージル。
「覚えているか?」
「なにを……」
どうして彼はこんなに怒っているのだろう。
焦点を結ばない目線で、はバージルを見つめた。
バージルはこん、と冷たく硬い何かをの額に当てた。
ガラスのボトルのようだ。
「おまえはこのロゼワインを一人で空けた。そして俺が帰って来たときには、既にソファで寝ていた」
「えぇ……?」
そうだっただろうか。
……そうだったかもしれない。
頭はぐるぐる、うまく働いてくれない。
が、確かに昨日、ほろ酔い気分でうとうととバージルの帰りを待っていたのは覚えている。
クリスマスの食事の支度をしなくちゃ、と頭の隅で考えていたような気もする。
けれど……
ん?
クリスマス?
「クリスマスは!?」
ははっと飛び起きた。
ぽとんと落ちた濡れタオルを手で受け止め、バージルはカレンダーに顎をしゃくる。
「今日は26日だ」
「えええ!!?」
「残念だったな」
きゅっと絞られたタオルで、額をぺしんと叩かれて……は泣きそうになった。
「そんな!楽しみにしてたのに!」
「時間は戻せないからな」
なおも嫌味たらしく、バージルはロゼワインのボトルを指でつついてみせる。
実はバージルもこれを飲みたかったのかもしれない。
……それはともかく。
「あの……」
まだぐらぐらする頭を何とかまっすぐに定め、はソファの上に正座した。
これが日本式の「ごめんなさい」高レベルであることは、バージルもよく知っている。
目をすがめてを見る。
「どうした?」
「……ごめんなさい。」
「何を謝る?一日寝過ごしただけだろう」
「いえ……あの……バージル?」
「何だ?」
「よかったら……今日、クリスマスをやり直してもらえませんか?」
今にも泣き出しそうなにじっと見つめられ、謝られ……本当はこっそり、楽しみにしていたこともあり。
「……付き合ってやろう」
溜め息とともに、結局バージルが根負けした。



ふたりだけ、一日遅れのクリスマス。
用意したツリーも食材も何もかも無駄にならずに、ふたりを楽しませた。
が。特別な一日を存分に満喫した反面、バージルもそれなりの見返りを求めたわけで……、はぐったりと「来年は絶対にバージルにお願いなんてしない!」と決心したのだった。



【Drink and Down and Up/end】