「さすがに全部飲むのはだめだよね」
後ろ髪を引かれる思いで、はまだまだたっぷり中身の残ったボトルをクーラーへ戻した。



クリスマスのメニューは、感謝祭のとき以来となる七面鳥。
ただし今回は丸ごとではなくて、扱いやすいレッグのみ。
甘辛く味付けをしてオーブンでこんがりと焼いたターキーレッグは、バージルも納得の出来上がりだった。
ぱりっとした皮とジューシーな肉。
「料理が上手になったな」
「ありがとう」
照れ笑いを浮かべ、は酒──先程のロゼワインをバージルのグラスに満たす。
甘いワインは、バージルがのために買ってきたものだった。
「このワインも美味しいよ。私好みの味、よく分かったね」
「買い物のときフルボディばかりカートに入れていたら、微妙な顔をしていたしな」
「ああ……」
そんなところまでよく見ていらっしゃる。
残り少なくなったのグラスに、今度はバージルがワインを注ぐ。
とぷとぷ。ボトルに残っていた分は全部グラスに移された。
「あれ。全部いいの?」
「俺は白を飲む」
「じゃあ、持ってくるね」
椅子を引いて元気よく立ち上がったまではよかったが。
「う」
ぐらりと足元が揺れた。

よろけた彼女を迅速に支えて、バージルはその背を撫でてやる。
「たったあれだけで酔ったのか?」
「ん……そうみたい」
とろんと熱を帯びた瞳、ほんのり桜色に染まった目元。
「いいきもち」
白ワインのことなどすっかり忘れて、はバージルの肩に寄り掛かった。
「酔っ払い者」
苦笑しながら、そのくせとても楽しそうにバージルはの頭を撫でる。
……彼女がアルコールにあまり強くないことなど、とっくに知っている。
「あつい……」
はバージルから身体を離して、手で襟元を緩めた。空気を求めて開かれたままの唇。
──好機到来。
自然と上がってしまいそうになる口角を必死にへの字に曲げ、バージルはを見つめた。
「俺は寒い」
は糸の切れたマリオネットのように、こくんと頷く。
「じゃ、あたためてあげる……」
アルコールが入っていなければ、絶対に聞けないセリフだ。
バージルは必死で笑みを噛み殺す。
「どうやって暖めてくれるんだ?」
さりげなく誘導しつつソファに座れば、はバージルの膝の上に腰掛けた。
「こうやって……」
バージルの首に手を回し、抱き締める。
「あったかい?」
「少しはな」
(まだまだ足りない)
誘うように顎を上げれば、もすんなりと唇を重ねた。
お互いに熱い吐息──はアルコールで、バージルはその他の理由で──を交わす。
それを五回ほど繰り返したとき、が苦しげに眉を寄せた。
「バージル……」
「……どうした?」
そろそろ嫌な予感を感じつつも、それでもバージルは誤魔化すように彼女の唇を追い掛ける。
「だめ」
ぷい、とが顔を背けた。

「……きもちわるい……」
先程までの色っぽさはどこへやら。
ぐったりと、今は本当にただの酔っ払いである。
(少し酔わせすぎたか)
うぅと背中を丸めるに、バージルは一瞬だけ天を仰いだ。
「洗面所へ行くか?」
抱き上げようと膝の下に手を回す。
はふるふると首を振った。
「大丈夫……このまま休んでたい」
「戻したくなったらいつでも言え」
「うん……」
をしっかり抱き寄せ、ゆるゆると背中を撫でてやる。
抵抗せずに、むしろ全力で自分を頼ってくる彼女に、
(これも悪くない)
結局おいしい思いをしたのはバージルなのだった。



【devil may care/end】