「足りなくなったら、代わりのワインを買って来ればいい……」
とくとくとくとく。ワインは耳にも美味しそうな音を立ててグラスを満たす。
「やはり美味だ」
調子に乗って喉を鳴らし、一杯、もう一杯と重ねるうちに……ついに中身は底をついた。
もうボトルを逆さに振っても、一滴たりともワインは残っていない。
(さすがにまずいことをしたか……)
しかし罪悪感を覚えるのとは裏腹に、酔いが回り始めた意識はだんだん眠気に押されてくる。
(こんなに酒に……弱いわけはない……)
抗ってみても、とにかく眠い。
特にすることがなく暇なことも手伝って、ゆらゆらと身体が舟を漕ぐ。
目蓋を閉じて、ふうっと意識を手放す瞬間が、実に気持ちいい。
(……。)
どさり。
重力に負けてソファに横たわったのが、運の尽き。
そのままバージルは睡魔に身を委ねたのだった。





……すう。すう。

何か、規則正しい音が聞こえる。
そして胸のあたりが重い。
(何だ……?)
まだ薄く熱を持った目蓋をどうにかこじ開け、視線を下ろす。
……すう。……くう。
そこには、呼吸で上下するバージルの胸に頭と手を乗せて、おだやかに眠っているがいた。
一気に眠気が吹っ飛び、バージルはぎくりと上体を起こす。

酒を飲んで眠ってしまった自分は当然として、彼女もなぜかパジャマではなく普段着のままだ。
いや、普段着……よりはずっと華やかな衣装。
(しまった……)
テーブルには手つかずの食事が並んでいる。
乱れのない食卓の上、ごろんと倒れているのは、昨夜バージルがひとりで空けたワインのボトル。
大変なことをしてしまった。

そろりと彼女の髪を撫でてみる。
……すう。すー。
ソファで、しかも不自然な体勢でも健やかに眠り続ける様子を見れば、昨夜はバージルが起きるのをずっと待っていたのだろう。
「すまない……」
バージルは額に手を当てた。
今ほど時間が巻き戻せたらと願ったことはない。
とりあえず、を寝室でちゃんと寝かせることにした。
起こさないように細心の注意を払って、抱き上げる。
階段の軋みすら許さないほどに丁寧に歩き、そして壊れ物のようにをベッドに横たえた。
?」
そっと呼んでみても、まだ目覚めそうにない。
ホッとするのと比例して、みしみしと心が痛む。
何をしたらいいのか。
すこし考え、答えが出た。
の頬にやさしくキスしてから、
「まずは花だな」
バージルは部屋を後にした。



クリスマスの謝罪は、の大好きな花をテーブルいっぱいに飾ることから。
それから、せっかくの料理をきちんと温め直して、元のように盛りつけ直して。
一人で空けてしまったワインのボトルを捨てたら、を起こしに行こう。

──その日からしばらく、バージルはの機嫌が直ったその後も、彼にしては不気味なほどにやさしく恋人に接したのだった。



【Drink and Down/end】