てのひらバージル

おひるね編




ごうんごうん
陽気のいい昼下がり。私の午睡を邪魔するのは、回したばかりの洗濯機だけ。……ではなかった。
こつんこつん
ソファに投げ出した腕に何かが当たる。
「うぅん」
私はころりと寝返りを打って『それ』から逃げた。
ごつんごつん
今度は後頭部に衝撃が来た。
「もー、まだ寝かせてよ……」
クッションにばふっと突っ伏する。
びしゅんびしゅん!
「バージル!」
こびとバージルの魔法攻撃、青つまようじにちくちくざくざくとつむじを刺され、私はついに観念して起き上がる。
「それ痛いんだってば!」
怒ってみても、バージルは全然堪えた風もなく、ただ私の背中辺りを指差した。
「何?……あ。」
彼の読みかけの本を枕にしてしまっていたらしい。
「ごめんごめん。はいどうぞ」
私の体温であたたかくなっている文庫本をバージルの足元に広げる。すかさず彼は、本が閉じないように片膝をついて押さえた。
バージルはこれから何時間か、本の虫になってくれているだろう。
「おやすみ〜」
私はクッションを抱きかかえて眠りについた。



彼女は今朝方まで夜勤だったらしい。
横になって数秒で眠りに落ちたから、相当疲れているのだろう。
……さっきは叩き起こして悪いことをした。
実は、手元(いや、足元か)の本は三度目を読了している。もう読み返す気分でもなかった。
ただ、昨夜からずっと彼女がこの部屋にいなかったから、だから──
(……何を考えている?)
まさか構って欲しいなど。
(まさか)
俺は本から足をどけた。ばたりと閉じた頁は、もうどうでもいい。
「ん……すぅ……」
すやすやと深く彼女は眠っている。
まだ当分、起きることはないだろう。
少しだけ迷ってから、俺はソファに上がった。
彼女の手首の窪みに背を預けて座ってみる。……暖かい。
静まり返った部屋には、脱衣所の洗濯機が動く音だけが規則的に響いてくる。
ぼんやりしていると、その音に合わせるように呼吸もゆっくりになっていった。もう瞼も重い。
(……少し寝るか)
彼女の傍はこんなにも、不思議と随分心地よい。
(先に起きないとまずいな)
普段はこれほど近くで過ごさない。彼女が目覚めたらかなり驚かせてしまう。
だが俺が先に起きてまた本を広げていれば、こうして一緒に昼寝していたとばれることもないだろう。
……あと小一時間、あの洗濯機が止まるまで──続く騒がしい音もやがて遠く耳の奥、聞こえなくなっていった。







→ afterword

ずいぶん長い間、拍手お礼文として頑張ってもらった短文でした。
普段なついていないこびとバージルが横で一緒に昼寝していたら、壮絶に幸せで、のたうち回ってしまうと思います(笑)

お読みくださって、どうもありがとうございました!!
2010.5.30