いくら二人が一卵性双生児だとしても
バージルの切れ長の凍る瞳と薄めの唇
ダンテの熱を秘めた瞳と楽しげな唇
そうそうあたしが間違えるわけがない
……はずではあった。



Rainy Bash With Twins




キィン!

空気をも分断しそうな激しい鍔鳴り。
いつものようにバージルとダンテは、とっても仲良く喧嘩中。
それがお互いに鍛錬になってるみたいな皮肉な部分もあるから、あたしもいい加減とやかく言わない。
……いや、それどころか。

「カッコいい……」

うっとり見とれている次第で。
だってどうしたって、デビルハンターの血が騒いでしまうのだ。
パッと見て、バージルの閻魔刀は細身の日本刀だし、ダンテの大剣リベリオンの前にポッキリと折られちゃいそう。
でもそれがどうして、閻魔刀に大剣があっさり弾かれること数度。
「うーん、カッコいい……」
一度だけ、バージルに頼み込んで手合わせをしてもらったことがある。
もちろん、真剣同士。
だけどただ一度の刃交ぜで、あたしの剣は欠けてしまった。
『どうして!?』
これでも、腕に多少の覚えはあったのだ。
愕然とするあたしの手を取って立ち上がらせ、バージルがホッとしたように吐息をついた。
彼にしてみれば、いくらデビルハンターで男勝りなお転婆と言えども、女(それも恋人)と打ち合いなんて嫌だったのだろう。
それが今、悪魔同士とてもいきいきと手合わせしているわけで。
翻る銀の髪。
人間の動体視力では、彼らの動き全てを見切ることなんて出来ない。
頑張って何とか彼らの動きを見切ろうと、目を見張る。
惚れた弱味で、自然と日本刀を操る人物の方に視線が吸い寄せられていく。
と。
ぽつん。
玄関先で座っていたあたしの頬に、水の雫が当たる。
大気が不安定なこの時期、いきなり雨が降り出したのだ。
「あああ」
シャワーのように強くなっていくばかりの雨に、あっという間にびしょ濡れになってしまい、慌ててバスルームへ駆け込む。
肌触りのいい、洗いたてのバスタオルを三枚取り出す。
一枚は自分用に使って、あとの二枚はもちろん双子用。
しかし、雨で視界さえ煙っているのに、バージルとダンテの喧嘩は一向に終わりそうにない。
どころか、水の視覚効果も相まって、先程より一層派手な立ち回りになっている。
やれやれ。
「バージル!ダンテ!いい加減にして、部屋に戻って!」
声を張り上げる。
しかし、いつもよりもエキサイトしている様子の二人は気付かない。
「バージル!!!ダンテ!!!家から閉め出しちゃうよ!!!」
喉から声を振り絞る。
それでも剣戟は止まない。
「……」
ぶるりと肩が震えた。
これ以上付き合っていたら、風邪を引いてしまうだけだ。
呆れて、家に入る。
最後の警告がわりに、バターン!!と、轟音を立てて扉を閉めてみる。
するとようやく二人が我に返ったようで、音がピタリと止まった。
「全くもう」
キッチンへ入り、暖炉の上のポットのお湯でココアを三人分作る。
ダンテ用にはマシュマロを浮かべて、リビングへ戻った。
……が。
(……あれ?)
あたしは信じられない光景を目にした。
ソファに座っている双子。
そりゃあ双子だから、そっくり瓜二つには違いない。
だけど。
(どうしちゃった……?)
下りた前髪から、破けてボロボロになった服まで、何もかもそっくり同じ。
これがいつもは、部屋に入れば殺気が落ちて穏やかになるバージルと、まだ興奮が御しきれていないダンテの様子で、すぐ分かる。
例え前髪が下りていようが、服が破けていようが、関係なく見分けられる。
だけど。
(二人ともそんなに殺気立ってたら、分からないよ!)
今回のは相当険悪な喧嘩だったらしい。
いまだ収まらない激情。
二人とも、タオルでわしゃわしゃと拭かれた髪は、バージルとダンテのいつもの髪型を足して二で割ったようなスタイルだし。
見分ける手助けをしてくれそうな二人の獲物は、どちらも壁に投げ出してあって役に立たない。
(ほんっとに……わからない……)
とりあえず、バージルにマシュマロ入りココアを渡すなんて失敗はできないので、特別仕様ココアは自分のお腹に収める事にする。
「どうぞ」
ことん、と二人の真ん中にココアのカップを置いて、すぐさま逃げる。
「どうしたんだ?」
片方が怪しむ。
……これはどっち?
バージル?……でも、早速ぐびっとココア飲んでるし……ダンテ?
混乱で蒼白になっていくのが分かる。
見分けがついていません!なんて告白しようものなら、どんな嫌味が雨霰と降ってくるか。
……いや、嫌味ならまだいいけれど。
ふと、もう一方の半魔が、身動きした。
「おまえ、まさか」
「ふぇっ!?」
動揺で、ものすごい変な声が出た。
双子から、同じ眼差しで探られる。
……まずい。
このままでは、もとより儚いあたしの基本的人権が更にピンチだ。
「えっと、寒くなったから、シャワー浴びてくるね」
ざっと立ち上がる。
「待てよ」
僅かに後ろに残っていた片手を捕まえられる。
「その前に、どっちがどっちかくらい、当てていけるだろう」
……やっぱり……勘付かれていたか……
あたしの半端な態度は、悪魔の悪魔たる所以、サディスティックな部分を引きずり出してしまったようだ。
しかも、機嫌の悪い二人同時に。
こんなとき、バージルなら助けてくれる──わけがない。
何せ、ダンテの兄。
秘めてはいても、大人ぶってみていても、悪戯好きな性格が根底にある。

「You know me DEEPLY, don't you?」
このからかうようなセリフはダンテ?
「I love your TINY LITTLE mistake」
このプレッシャーをかけてくるセリフはバージル?

変な汗がじわりと滲む。
「どうした、分からないか?」
熱情を秘めた眼差しに見つめられる。
これはバージル?
それともダンテ?
──Give up.
姑息だと分かっていても、もう、あの手しかない。
もう一人の後からの反応が怖いけれど、それより今助からなくては。
確実に双子の反応を分ける一言。

かくり、とその場に跪く。
お次は、できるだけか弱い女の子モードに変身。
祈るように手を組んで、そして震える声で言う。
出来るだけ、色っぽい声音で、吐息混じりに。
二人の中間地点を潤んだ瞳で見ながら。


「ごめんなさい……ダンテ……」


「「!!」!?」
ごめんなさい。
見分けがつきました。

シュタッと立ち上がると、瞬き三回で嘘涙を吹き飛ばす。
「あなたがダンテ」
頬を赤くしている方を指差す。
「そして、あなたがバージル」
不機嫌に眉を顰めた方を指差す。
「じゃあ、そういうことで」
珍しくココア一番乗りだったのはバージルか〜などと思いながら、バスルームへ歩く。
ま、たまにはあたしだって勝たないと。





リビングに残されたのは、咄嗟に演技も出来ない程だった不意打ちを喰らって、すっかり毒気の抜けた悪魔二人。
「間違われるよりは……マシか?」
ダンテがわしわしと髪を掻く。
「いや、今回は間違われた方がよかった……」
ようやくバージルが前髪を上げる。
あんな色っぽい声、俺にはそうそう使ってくれないくせに。
いくら追い込まれていたからと言って、そんな声で弟を呼ぶなんて、とバージルは頗る機嫌が悪い。
突然、ダンテが笑い出した。
「……何だ?」
面倒くさそうに振り返るバージル。
「すげー女」
ダンテは腹を抱えて、苦しげに笑い続ける。
その『すげー』がどういう『凄い』なのか……バージルも、分かった気がした。
つられるように唇に笑みを刻む。
……確かに、凄い。
あっさりと、死闘直後の超絶不機嫌な悪魔二人の心を明るくしてしまうのだから。


その夜。
覚悟していたよりもバージルの機嫌が良くて、は安心しつつも不思議だったという。







→ afterword

双子なら、一度は書きたい見分けネタ!
ですが、これはヒロインに勝たせてみました(笑)

私はバージルは髪を上げてる方が(上げる仕草含めて)彼らしくて好きですが、下ろしてるバージルは人気ありますね。
皆様はどちらがお好きですか?

それではここまでお読みいただき、どうもありがとうございました!

2008.7.7