雨の日も
彼の隣で




Rainmaker




「止まないね」

窓ガラスをひっきりなしに流れていく雨を目で追う
気温は緩み、水分は雪になることはなく地面に降り注ぐ
玄関前に作った雪だるま達も、もう随分前に溶けてしまった
「そんなに出掛けたかったのか?」
バージルが傍に来る
あたし達は、今日の夜はダンテもいないし、外へ食事に行こうと約束していたのだ
日常をほんの少しだけ離れて過ごせそうな所まで、あともうちょっとだった
「そんなことないよ」
言葉とは裏腹、未練が燻っている
それを断ち切るように、カーテンを引いた
外食が中止になったなら、メニューを考えなければ
料理を作るのは嫌いじゃない
食べてくれる人が恋人なら、なおさらだ
「バージル、何が食べたい?」
振り返ると、視界一面を何かで覆われた
「わっ」
慌ててそれを剥ぎ取る
それはあたしのトレンチコート
いつの間にやら、バージルもコートを羽織っている
「え、出掛けるの?こんなどしゃ降りの中?」
「満月の夜よりはいい」
皮肉混じりにちらりと視線を寄越す
そしてさりげなく差し伸べられる手
「行くぞ、
あたしはどうしようもなく嬉しくなって、バージルの腕に飛びついた



外はとてもではないが、相合い傘をしていけるような雨ではなかった
ざあざあと叩きつけるような雨足
あたし達はそれぞれ傘を差して歩く
狭い歩道では並んで歩くことさえ出来なくて、バージルの広い背中をただ黙々と追い掛けた
(やっぱり外出したくなかったのかな)
いつもより早歩きな気がして、彼を追う
足元には、街灯の光が水溜まりにゆらゆら滲んでいる
それすらあたしを責めているよう
ざあざあ。

「着いたぞ」

バージルが立ち止まった
行き付けの、こぢんまりとしたレストラン
ドアを開けてもらい、中へ入る
店内は食事時にしては空いていた
バージルが、少し濡れたコートをクロークに預ける
独特の、雨の匂い
同じようにしながら、罪悪感が募る
(ワガママ言うんじゃなかった)
席についても心は晴れなかった
特に相談せず、いつもと同じメニューを頼む
食前酒のシェリーに口を付けて、やっとバージルと目が合った
「……呆れてるでしょう?」
「そうだな。少しな」
あっさり肯定し、運ばれてきたコールドミートにナイフを入れるバージル
「それでいい。おまえに振り回されるのも、これで結構楽しんでいる」
何気なく、付け足された言葉
思わぬ不意打ちに、あたしはくすっと下を向く
「……泣いてもいい?」
「今は困る」
「じゃあ、後で泣く」
「そうしてくれ」
そんな会話を交わし
ちいさく笑い合う
それから周りの視線も気にすることなく(どうせ互いしか見えていないのだ)、テーブルランプ越しに口づけをした



会計を済ませ、コートを着る
傘を受け取り、ドアを開ける
ここからはまた、バージルの背中をとぼとぼ追い掛けるだけだ
お気に入りのデザインの傘も、何の慰めにもならない
と、バージルが腕を引いた
あたしの傘を取り上げる
外はまだ大雨
首を傾げると、バージルが自分の傘を示した
「もう帰るだけだ。濡れても構わないだろう」
ぽん。
雨に対抗するように、バージルの傘が咲く
ふたりには、少し狭い空間
バージルがあたしをぐっと抱き寄せる
、寒くないか?」
あたしはふるふると首を振る
「全然、寒くないよ」
心地よい体温に守られている
寒いはずない

ざあざあ。
相変わらず賑やかな、雨のダンス
けれどもうちっとも、音が気にならない
「帰ったら、紅茶飲もうよ。ブランデーたらして」
「ああ、そうだな」
それから、最近出番の減った暖炉に薪を入れて、二人分のコートを乾かして
「雨の日も悪くないね」
「現金なやつだ」
更に強く抱き寄せられる
バージルのコートから強く香る、雨の匂い
あたしは、あたしの左肩よりもびしょびしょのバージルの右肩を愛しく思った







→ afterword

これは、ダンテ夢の「Mr.Sunshine」と対になるイメージの話でした。
あっちは最後に晴れてのハッピーエンドですが、こちらは雨のままのハッピーエンド。
ダンテがMr.Sunshineなら、バージルはRainmakerだ!と…!!
バージルと相合い傘、いいですよね…!ロマンです!

それでは、短いお話でしたがここまでお読みくださいまして、本当にありがとうございました!
2008.11.10

追記)「sweetness」から改題しました。直球!