バージルさんと過ごす、二回目の日曜日。
朝から(祖母の強い要望で)バージルさんと浅草の仲見世巡りをしている。
買ったばかりの焼きたてのお煎餅をパリパリと食べながら、のんびりと散歩。
……それにしても。

「お兄さん、これ試してみて~」
佃煮。
「これ、似合うんじゃないかい?」
扇子。
「摘みたてだよ!」
新茶。

バージルさんと歩いていると、次々とお店の売り子さんから声が掛かる。
おばちゃん店員さんなんて、いつもより2オクターブは声が高くなってるよ……
それだけじゃない。
ここでは外国人観光客も珍しくないはずなのに、彼はやたらと衆目を集める。
まあ、ちらりと横のバージルさんを見やれば、それもしかたないかと納得。
──ああやっぱりかっこいい。
人目を引くことに慣れていない私はそわそわ落ち着かないけど、でも、心のどこかではこうしてバージルさんと並んで歩けることに誇りを感じてしまっていたりして。
別に私たちは、周りの人が考えているような関係ではない。
それが残念でもあるけれど……。
……って、私は今、何を考えてた?

私のぐるぐる混乱思考を断ち切るように、突然バージルさんが話し掛けて来た。
「これは何だ?」
手にした分厚くしっかりとした布を広げる。
「あっ、ああ、それはね、帯だよ。着物の腰に巻く布。刺繍が綺麗でしょ」
「キモノか。おまえの祖母は毎日着ているな」
「うん。バージルさんも今度着てみたら?似合うと思うよ」
羽織袴もいいけど、粋に着流しも似合いそう。
勝手に妄想していたら、バージルさんが足を止めた。
「そういうおまえは着ないのか?」
聞かれてきょとんとした。
「……あー。着物を着ると疲れるから……」
「その疲れる衣服を人に勧めるのか?」
バージルさんが呆れてふうと溜め息をついた。
それもそうでした。
「……はは……いえ、バージルさんなら似合うかと」
「その言葉、そっくり返そう」
「ん?」
「おまえが着るなら、俺も着てみてもいい」
ものすごい早口だ。
「ちょ、ちょっと待って。今何て?Say it again, please?」
答えず、すたすた先を行ってしまった。
ひょっとしたら彼は今、『怒る』『呆れる』『不機嫌』以外の表情をしているのでは?
「もー、待って下さいったら!」
ぎりぎり追いついて、横顔を覗き込む。
ぷいっとそっぽを向かれてしまったけれど、私はそれだけで何だか満足してしまった。



日が暮れて、私たちはおばあちゃんの知り合いの定食屋さんで食事をすることにした。
「ここはチャンポン麺がお勧めだよ」
「トンコツ味なら断る」
「大丈夫、もっとあっさりしてるから」
ここ二週間ですっかりグルメ(?)になり、ラーメンの味の選り好みまでするようになったバージルさんに、おしぼりを渡す。
「それにしても、ちょっと時期が悪かったね」
「何がだ?」
私は、店の壁に掛けられたカレンダー(もちろんここの商店街バージョン)を指差す。
「もう少し早く日本に来てたら三社祭が、もっと遅くなら隅田川の花火大会が見られたの。花火大会は、うちの近所の小学校の屋上から見るとそりゃもう絶景なんだから」
「ほう」
「花火大会ではね、浴衣着ちゃったりなんかして、この辺りもすごい賑やかになるんだよ」
バージルさんには鼠色の渋い着流しにうちわを持たせたりして。
私は金魚柄とか朝顔とか、ありきたりな柄の浴衣をひらひら着て、右手に綿あめなんて持ってみたりして。
そうしたら、左手はもちろん……
「うわあ!」
「どうした?」
バージルさんが思いっきり眉根を寄せて私を怪しむ。
「な、なんでも……」
まずい、うっかり妄想モードに入ってしまっていた。
慌てて水を飲んで深呼吸する。
目の前にバージルさんがいる限り、これはあんまり意味がないけれど……
「あいよっ、チャンポン麺お待ちー!」
「ありがとおじさん」
ナイスタイミングだ!
割り箸をバージルさんに渡す。
うまく話が途切れてくれた、と安心していたのに。
「えらくかっこいいあんちゃんだね。ちゃんの彼氏?」

ごほっっ

「おやおや、スープ熱いから気をつけなよ」
「そ、そうじゃなくて……」
「はっはっは、おじさんお邪魔虫だね。じゃあ、ご両人さん、ごゆっくりね~」
「……もう……」
この分では早々に、私に彼氏が出来たと商店街のみんなが噂のタネにすることだろう。
はっきりくっきりと想像できてしまい、がくりと肩を落とす。
「何の話だ?」
追い討ちをかけてきたのはバージルさん。
「いや、麺が伸びちゃうから早く食べなさい、って」
「……。」
バージルさんは明らかに納得していないようだったが、私は彼をまるきり無視して箸を進めた。



うちに戻る頃には、すっかり疲れきっていた。
こんなときは。
「……熱いシャワーを浴びてこよう……」
気分はさっさと布団に包まって眠ってしまいたいところだったけれど、億劫でもお風呂に浸かってしまえばリラックスできるし、疲れも取れる。
「よいしょ」
私は若いくせに気合いを入れて立ち上がった。



「おや、帰って来てたのね、バージルさん」
居間の掛け軸をしげしげと眺めていたバージルに、の祖母が声を掛けた。
バージルも軽く頭を下げる。
言葉がまるきり通じない二人ではあるが、その辺はボディランゲージも交え、なぜかあまり意思疎通に困ってはいない。
「ご飯は?」
祖母が箸を口に運ぶ素振りを見せる。
少し考え、バージルはこくりと頷いた。
「済ませて来たのね。なら、お風呂入って来なさいな」
風呂場の方向へバージルを押し出す。
「Thank you」
意図を理解したバージルは、できるだけゆっくりと発音した。



「うーん」
私は脱衣所の鏡の前で下着姿のまま、右を向いたり体を捻ったりしていた。
「太ったかなあ」
ここのところ、祖母がバージルさんのためにやたらと食事を豪勢に用意するものだから、ついつい誘惑に勝てずに食べ過ぎ気味なのだ。
「やだなー」
おそるおそる、体重計に乗ってみる。
「で、できるだけ軽くしなきゃね」
下着も全部脱いで、素っ裸になる。
いざ!と目盛りを確認しようとしたところで。

ガラリ。
後ろの扉が開いた。
「「!?」」

「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
バターン!!

私が肺の空気をありったけ吐き出して叫ぶのと、扉が轟音で閉められるのと、ほぼ同時だった。
「うそぉ……」
一瞬だけ目に映ったのは、銀の髪。
「おじーちゃん……じゃないよねえ……」
祖父の白髪も見事なものだが、残念ながらあんなに背は高くない。
「うああ……」
バージルさんに、裸を見られてしまった。
「うああ……」
背中側だったからまだしも……いいややっぱりお尻丸見えだし!!!
「うああ……」
私はへたへたとその場にしゃがみこんだ。



何とか気を取り直してお風呂に浸かり、部屋に戻ったのはたっぷり二時間後だった。
自分の部屋に戻るまでにバージルさんに会わないように、私はありとあらゆる神々に祈りを捧げた。
……とはいっても、明日の朝になれば朝食で会うわけだし、永遠に逃げ続けるわけにもいかない。
──気まずすぎる……
「うああ……」
さっきから三十回は出しているゾンビみたいな呻き声をまたしても繰り返しながら、私は椅子に座る。
あまりの羞恥心でいてもたってもいられなくって、机に突っ伏したところで。
ごちん。
何かに頭をぶつけた。
「ん?」
目を上げれば、ミネラルウォーターのペットボトル。
冷蔵庫から出されて長いこと放置されていたのだろう、汗をかいてぬるくなっている。
「?」
何だろコレ、とよくよく見れば。
ペットボトルの下には、水滴でよれよれになったメモ、そして。

『I'm sorry』

その大きな紙に、ぽつんと書かれた几帳面な文字で綴られた一文。
「うああ……」
今度の『うああ』はさっきまでのとは少しだけ、意味が違うものだった。



翌朝。
私はいつもよりも30分早起きして、できるだけバージルさんと顔を合わせないで済むようにと台所へ降りて行った。
……が。
「イタダキマス。」
そこには、席に着いてきちんと手を合わせているバージルさんがいた。
同じことを考えていたか……。
見事に作戦失敗。
彼の性格を鑑みて、私が30分遅く来ればバッチリだったのだ。
今さらもうどうしようもない。
ここでハリウッド映画か何かのラブコメなら、『あたしのお尻どうだった?』とでもジョークを飛ばせるんだろうけど、残念ながら私はキャメロン・ディアスではなくただの純日本人だし、そもそもバージルさんにその手のジョークが通用するのかどうかも分からない。
ともかく、私はできるだけ何事もなかったかのように台所へ入って行った。
「ぉ、ぉはよぅ……」
結局、声が震えてしまって蚊の鳴くような声で挨拶する。
「……おはよう。」
バージルさんがそっぽを向きながら答えた。
だめだ。
空気が重すぎる。
朝から胃薬が必要な事態なんて、できるだけ避けたい。
「あ、あの!バージルさん!」
突然の呼び掛けに、バージルさんも少しだけ驚く。
目が合って、お互い『どうしよう』という感じがそっくり伝わる。
数瞬後、

「昨日はお水をありがとう」
「昨日はすまなかった」

ほぼ同時に、そんな会話が成り立った。
私が彼の英語を理解するのにワンテンポ遅れた分だけ、先にバージルさんが目を逸らす。
「……すまなかった」
何も言わない私の反応を『怒っている』と取ったのか、彼はもう一度謝った。
私は慌てて両手を翳す。
「あ、そ、その、びっくりしたけど……大丈夫だから」
ほんとは大丈夫じゃないけれど。
「……なら、いい」
いつもよりは随分おとなしい口調。
空気は重くはなくなったけれど、今度はひたすら居心地が悪い。
「き、今日おばーちゃんとおじーちゃんはどどうしたのかな……」
自分の分のご飯を茶碗によそいながら、疑問を口にする。
いつも一緒に朝食を食べているのに、何でこういうときに限っていないんだろう。
「二人とも工房だ。もうすぐ作業が終わるらしい」
「あ、そうなんだ」
もう三週間近く経つのか。
あっという間だった。
「……よかったね」
「ああ……」
何だか二人、どちらのセリフもすっきりしない。
……刀の修理が終わったら、バージルさんはアメリカへ戻ってしまう。
三週間、毎日一緒にいた。
あちこち見て回ったし、いろんなものを食べた。
完全な会話なんてできないけど、気負わず自然に英語で話しかけることだってできるようになった。
──だけど、帰っちゃうんだ。
「ゴチソウサマデシタ。」
先に朝食を食べ終えたバージルさんが、食器を重ねて立ち上がる。
「あ、食器洗うから。そこに置いておいて」
蛇口を捻って食器を水に浸してからも、バージルさんはそこを離れない。
「おまえは大学に行くんだろう?俺が洗っておくから、構わなくていい」
「あ。そうか、大学……」
今日が月曜日だということを忘れていた。
大学に行ったら、バージルさんと過ごせる時間がさらに減ってしまう。
「どうした?月曜は一時間目から入っているのだろう?遅れるぞ」
「うん……」
バージルさんが私の時間割まで覚えていることが、無性に切なくなった。
「いってきます……」
かたん、と力なく椅子を引く。

バージルさんが蛇口を止めた。
「はい?」
振り返った私に、けれどバージルさんは何でもない、と背を向けた。
何か言いかけたでしょ?との言葉は、再び流れ出した水音に遮られた。



大学に着いても、ぼんやりと授業に身が入らなかった。
カツカツというチョークが黒板を叩く音、教授の長口舌。
どれも思考に引っ掛からずに、右から左へ通り抜けていく。

バージルさんがいなくなる……

通訳の手間もなくなるし、お風呂場でばったり遭遇することもない。
突然名前を呼ばれて胸が高鳴ることも、夜に廊下ですれ違って何だか気まずい気持ちになることもない。
あの、青い瞳に見惚れて我を忘れてしまうことだって──

ガタン!

ちゃん!?」
隣席の友達が、いきなり立ち上がった私にギョッとした。
「私、帰るね!」
「えぇ!?どうしたの?」
「胸が痛いから早退!」
言うが早いか、荷物を引っ付かんで教室を飛び出す。
たくさんの学生に注目されたけど、今の私はもうそんな視線も慣れっこ。
一度走り出してしまえば、痛いはずの胸はすっきり爽やかだった。



走って走って、電車の中でも足踏みしちゃったりなんかして、大学から祖父母の家までの最速記録を叩き出した。
いつもそうするように、縁側にダッシュする。
だけど、そこに彼はいなかった。
バージルさんがいたのは縁側ではなく、その下の庭。
修理が終わったばかりの刀を抜き、見えない敵を斬るみたいに静かに型を舞っていた。
目はまっすぐ前を見つめ、周囲はピリピリと鳴りそうなくらいに張り詰めた緊張感。
こんな彼を見ることは初めてだった。
──恐い。
バージルさんがここに来た日感じた思いが、今ひとたび息を吹き返す。
だけど、恐いと思えば思うほど、あの日の繰り返しのように目が離せなくなる。
心にますます彼の侵入を許してしまう。
?」
バージルさんがハッと動きを止めた。
気付かれたことにビクリと肩を揺らした私の反応を勘違いしたのか、手早く刀を鞘に納める。
「大学はどうした?今日は夕方まで講義が」
「会いたかったから帰ってきたの」
私は日本語で答えた。
複雑な想いを完璧に外国語に翻訳できるほど、私は器用じゃない。
……?」
案の定、分からないとバージルさんは目を細める。
探られるように見つめられても、その瞳は氷みたいな色ほどつめたくはないことももう知っている。
私は甘えるように一歩踏み出した。

「かえらないで……」
こんなことを伝えて、何になる?

「そばにいたいよ……」
そもそも、正しく伝わるかすら怪しいのに。

「バージル……」
涙が視界を塞いでもう限界だった。
ぱた、と瞬きした刹那。


「おまえを連れて行く」


あたたかい腕の中にいた。
「ひっく……ぅえ?」
置かれた状況が理解できない。
バージルさんはどこにいる?
「おまえの日本語にも、涙にも……俺は弱い」
超至近距離で覗き込んでくる双眸と、優しい声音。
カメラのピントが合うように──私は全てを理解した。
「!?ちょ、ちょっとまっ」
「何だ急に」
「つ、連れていくって?どこへ?」
「は?アメリカだが。俺の家へ」
「!?」
じたばたともがいてバージルさんの腕から逃げ出す。
「む、無理だよ!」
「……確かに急だしな。パスポートはあるか?」
「高校の卒業旅行で用意したからあるよ。……って、そうじゃなくて!」
「出立は明後日だ。」
「えっ。そんなに早く帰っちゃうの……?」
「おまえも連れて行く、と言っただろう」
「あ、いや、その……」
だめだ、頭がうまく働かない。
バージルさんと、アメリカへ?
たった三週間一緒にいただけの人と、異国の地へ?
私の人生、そんな簡単に決めていいのか?
大学だって卒業していない。
「そそそうだ、大学!大学あるし」
途端にバージルさんの顔が曇った。
「……アメリカの大学へ編入しろ、と言うだけなら簡単だがな……」
腰に手を当て、空を仰ぐ。
肩で大きく息をつく。
「卒業したら……来い。待っている」
バージルさんが、そっと手を差し伸べた。
顔には、極上の微笑み。
──こんなのって、ない。
「今すぐ一緒に行く!大学は向こうに編入する!」
私はバージルさんに抱き着いた。
彼はやれやれといった面立ちのくせに、しっかり抱き締めてくる。
妙に悔しい。
「……あの顔は絶対にずるいよね……」
「何か言ったか?」
「いいえ、なんでもないです」
「英語で言え」
「Pardon?」
生意気を言おうとした唇は、バージルさんに塞がれて、それ以上何も言えなくなってしまった。



「その刀に触れなくなるのも寂しいが、まさかまで連れて行ってしまうとはなぁ」
の祖父が苦笑した。
完全に理解できないまでも、バージルは申し訳なさそうに軽く頭を下げる。
「この三週間、おまえさんといるときのはいきいきしていたから、心配はしとらんよ。だが」
ちらり、と刀に目を落とす。
「それを使う荒事に、を巻き込まないでやってほしい。そして幸せに暮らせよ。これだけは譲れんぞ」
閻魔刀の柄をぎゅっと握り絞め、バージルはきっぱりと頷いた。



出発までの二日間、準備に追われて私は寝る間もなかった。
とりあえず必要最低限の物だけスーツケースに詰め込んで。
私がバージルさんとアメリカに行くと告げたら父も母も吃驚仰天だったが、祖父母の説得と、きっちり正座までマスターした彼を見たら、逆に恐縮している始末。
何もかもが恐いくらいに順調だ。
本当に……一気に世界が変わる。
隣で荷物のチェックをしているバージルさんの横顔を見る。
何度見てもかっこいいと思ってしまう自分が、悔しいやら情けないやら。
「三割増し、三割増し……」
私は必死に呪文を唱え続けた。
「"Sun will shine"?」
聞き咎めたバージルさんが空耳を披露する。
その的はずれな言葉と声すら、今の私には、
「三割増し。」
……ほんとは髪や瞳の色なんか、理由にならない。
ただもう、この人に恋してしまっただけ。
袋を開けたら何倍にも膨らんでいく手芸綿みたいな勢いで、もこもこ広がっていく気持ち。
まだ彼に対して意味もなく恐さを感じることはあるけれど、恋心の単純なところ、それは恋人の欠点は見えにくくなるというもの。
「どうした?」
そろそろ本気で訝しむバージルさん。
私はふるふる首を振った。
「なんでもないよ」
そう日本語で答えた。
『なんでもない』
きっと、彼がいちばん最初に覚える日本語になるだろう。



アメリカへの帰路。
最初は窓にべったりと張り付いて『雲だ!星だ!』と散々騒いでいただったが、さすがにもう騒ぎ疲れたのか、さっきからかくんかくんと舟を漕いでいる。
彼女の様子を頬杖をつきつつ見守りながら、バージルはそっと目を細める。
思えば、かなり強引なことをしてしまった。
大学も日本での生活も、全て投げ出してついてこい、などと。
「"Sun will shine"……」
がよく呟く、そんな感じの言葉。
おそらく自分の空耳で、は全く違うことをしゃべっているのだとは思う。
でも、空耳にしてはいい言葉だ。
この先二人の間に何か問題が起こったとしても、そのフレーズを思い出せば大丈夫な気さえする。
「うーん……」
がこちん、と窓に頭をぶつけた。
その様子に苦笑しながら、バージルは彼女の頭をそっと自分の肩にもたせかける。
ついでに髪を撫でる。
耳元に届く、すやすやという寝息が心地よい。
自分も少し休もうとしたとき、客室乗務員がカートを押して来た。
「Sir。お食事の時間ですが、いかがなさいますか?」
溌溂とした元気なその声に、バージルは人差し指を唇に当てて、目をに向けてみせる。
客の意図を理解した乗務員は無言で頷くと、食事ではなく毛布を差し出して来た。
気が利くのかそうでないのか、たったの一枚。
ありがたくそれを受け取ると、バージルはと自分に毛布を掛けた。
彼女の頭越しに窓の外を見れば、見事な星空。
この夜を越えれば、いよいよアメリカだ。
Sun will shine.
そしてふたりの新しい生活が、始まる。








→ afterword

16000hitsのリクエスト、日本人ヒロインのバージル夢でした。
『nine one one』ではヒロインがアメリカに行ったので、今回はバージルに日本に来てもらいました。
銃刀法違反?気にしない、気にしない…
書きたいシチュエーションがたくさんありすぎて、詰め込みすぎてしまいました。
バージル、納豆も慣れれば美味しいんだよ~!(笑)

それでは、リクエストしてくださった陽様、並びに長い話に付き合ってくださったお客様、ありがとうございました!
2008.5.29