「……これか」
「おい、あんたそんな趣味があったのか?」
「っ、馬鹿か貴様は!……これで、『あること』を調べる」
「は?」
「結果を知りたいのなら、お前も半額負担しろ」
「だから、何の結果だよ?」
「その説明は後でな。で、どうするんだ?知りたいのか、知りたくないのか?」
「……よく分からねぇが、乗ってやるよ」
「決まりだな」




Game of Love・Round 4




「『様。
この度は弊社ゲームソフトの懸賞にご応募頂き、ありがとうございます。
厳正なる抽選の結果、見事ご当選されましたので……』で、ゲームが当たったの?」
トリッシュがひらりと手紙を翻した。
どれどれ、とレディもそれを覗き込む。
「そうなの」
は一本のゲームソフトを二人に見せる。
「これ。『アンジェリーカ』」
ばーんと示されたのは、美少年から美壮年までがずらりと勢揃いしている華々しい恋愛シミュレーションゲームのパッケージ。
ぶっ、とトリッシュ&レディは同時に吹き出した。
、あなた……」
「と、トリッシュ!あのね、これは」
「へ〜え、面白そうじゃない」
「レディも!違うんだったら」
顔を真っ赤にして必死に首を振る哀れなに、二人はようやく笑いを収めて向き直る。
「何が違うの?」
はむすっと頬を膨らませた。
「私、この懸賞に応募してないの」
「ええ?」
「じゃあ」
「そう。だから当たるわけない」
「……変ねえ」
「でも、この手紙にはちゃんと『様』って名前も入ってるわよ?」
「うーん……。でも」
「ま、何でもいいじゃない」
レディはるんるんと鼻歌まじりでゲーム機を立ち上げる。
「え、ちょっと」
がきょろきょろと辺りを見回した。
考えを察して、トリッシュがにこりと微笑む。
「大丈夫。ダンテもバージルも、今日は時間かかる依頼を受けてるはずだから。だから私達を呼んだんでしょ?」
「男どもがいない間に、恋愛三昧ねっ!」
「違うんだってば!私は、」
「始まったよ。おもしろそう!」
流れ出す優美なデモムービーに、レディが嬉々としてコントローラを持つ。
「でもこういうのって、まずはターゲットを知っておくべきじゃないの?」
トリッシュが説明書を広げた。
恋愛対象は実に10名以上。
「へえ、みんな個性的ね。レディはどの子が好みなの?」
「そーねえ……」
レディは真剣に彼らのプロフィールを見比べる。
「ルヴォ様かヴィクトーレ様かなあ」
「あら。大人の男がいいの?あなたのことだから、ランデェとかゼフォルとか言うと思ったけれど」
トリッシュのからかうような眼差しに、レディがつーんとそっぽを向いた。
「オトコはやっぱり包容力でしょ!」
「うふふ、そうねー」
「で?は?」
「えっ」
こそこそ隠れるようにして二人を見守っていたのに突然水を向けられてしまい、はびくんと肩を震わせた。
「誰が好みなのかなー?」
レディにずいっと説明書を見せられる。
「わ、私はいいよ……」
「ダメ。みんな一人ずつ指名するの」
逃げるにトリッシュが釘を刺す。
「指名って……」
「私はもうタイプの人を暴露したんだからね!」
(レディは積極的に話してたじゃない……)と思ったが、押しの強い二人に勝てるわけがない。
は渋々と説明書を手に取った。
本当に個性が強い面々。
(このジュリオス様とクロヴィス様は威圧感たっぷりって感じでバージルっぽいなあ……オスカル様は服も赤いしダンテっぽい……。ということでこの二人はちょっと、ね)
となると。
「……セイロン様かなあ」
「「へええーーー!」」
「なっ何!?二人して!」
真っ赤な顔のをにこにこ見つめ、口元はにやついているトリッシュとレディ。
((ジュリオス様とかオスカル様って言うと思ったのに……))
「二人とも!私のことはもういいから!トリッシュは!?」
べしっと説明書をトリッシュに押し付ける。
トリッシュはすました表情で品定めを始めた。
「そうね……」
綺麗にルージュの引かれた花びらのような唇が、色っぽく笑みを刻む。
「アイオスかしら」
示されたのは、銀髪にオッドアイの青年。
「え」
「これって……」
レディとの動きが止まる。
「何?」
「だって、銀色の髪って、どうしても……」
飄々としているトリッシュに、の方がもごもご口ごもってしまった。
レディも何度も頷く。
当のトリッシュは髪をさらりと背中に払って余裕で微笑むばかりだ。
「ミステリアスな男が好みなの」
((トリッシュ自身がいちばんミステリアスですけど……))
とレディはそっと目で同じ意見を交わした。



ターゲットは絞れた。
では、実際に誰を狙うのか。
女三人は平和にじゃんけんで決めることにする。
ここで家具が壊れたり、拳が物を言う展開になったりしないのが双子とは違う女子組である。
「いーい?誰が勝っても恨みっこなしよ。じゃんけん、」
レディが音頭を取る。
ぽん。
「あら」
チョキチョキグーで、勝者はトリッシュだった。
「アイオスで決定ね」
優雅にコントローラを持ち上げる。
((やる気満々だ……))
気分の乗り遅れた二人を尻目に、トリッシュはさくさくとゲームを進めていった。



会話を交わし、デートを重ね……アイオスと主人公の恋仲は順調に発展していった。
が、エンディングまであと少しというところでタイムアップ。
「そろそろ片づけておかないと、あいつらが帰ってきちゃうね」
レディが腕時計を確認した。
「せっかくだけど、続きはまた今度にしましょう」
ずーっとコントローラを占領していたトリッシュがようやく手を空にする。
も、ううんと伸びをした。
恥ずかしいセリフを列挙され、ものすごく疲れてしまっている。
「じゃ、またダンテ達がいないときがあったら呼ぶね」
「うん!」
「またの機会に」
真剣に集中していたらしい二人も、疲れた顔を見せた。
めいめいに夜の街へ帰って行く。
きちんと背中を見送ってから、は今の今まで遊んでいたゲームを「彼ら」には絶対に見られたくないものとして、迅速に厳重に保管した。





……深夜。
フクロウが鳴く声が響いてきそうなくらいに全てが寝静まった頃合いに、悪魔ふたりは行動を開始する。
「ワンパターンだな、
悪魔その1・ダンテがやすやすと彼女の隠した秘密を暴く。
『アンジェリーカ』。昼間、達が遊んでいたあのゲームである。
「自室に隠されたら手が出しにくかったから良かったけどな」
「それでも気配を殺しての部屋から手に入れる迄だが」
悪魔その2・バージルが悪魔らしく剣呑な態度を披露した。
オレが見つけて良かった、とダンテは心底安堵する。
「で、このこっ恥ずかしいゲーム、どうすんだよ?」
まだバージルの意図が飲み込めていないダンテ。
バージルはふんと鼻で笑った。
流れるように淀みない動きでゲーム機を起動する。
無表情でセーブデータを開き、
「おい、それのセーブしたやつだろ?」
すかさずそれをダンテが見咎めた。
以前『モンスターメイクライ』というゲームをみんなで遊んだとき、のセーブデータをダンテがうっかり上書きしてしまい、「ウェスカーマストダイまで進んでたのに、またイージーからじゃない!体力のブルーハーブも全然集めてないしー!」と散々怒られたことを思い出したのだ。
イージーから最高難易度を徹夜で進めさせられたのは自業自得とは言え、なかなかきつかった。
思い出して少々グロッキーになっているダンテを尻目に、バージルはさっさとゲームを開始する。
「おい……」
「このデータでないと意味がない」
きらびやかな音楽と共に、彼女が最後にセーブした地点からストーリーが始まる。
そのメニュー画面、『人物情報』を開く。
現れた文字列に、バージルはにやりと口の端に笑みを上らせた。
よく分からないままダンテは画面とバージルを見比べる。
「ほう……こいつか。……成程な」
くっくっく、と喉を鳴らすバージル。
さすがのダンテも、ぞわりと背筋を凍らせた。
「な、なあ。何なんだよ。何がおかしいんだ?」
データ分析を邪魔され、バージルは憤慨してダンテを睨む。
「まだ分からないのか。……これを見ろ」
画面を指差す。
見ろと言われても。
美少年から美壮年までずらりと画像が並んだ画面と、何かの数字しか書かれていない。
「見たぜ。それが何なんだ?」
「……数字をよく見ろ。全部同じ数字か?違うだろう」
「あ?」
細々とした文字をじいっと見比べてみる。
……確かに、下は0、上は120辺りまでがてんでばらばらと書かれている。
「それがどうした?」
「……それは『好感度』だ」
「ああ?」
が好感度を上げていた人物が」
バージルの言葉に、ダンテが目を見開く。
「あいつのタイプの男ってことか!!」
やっと理解したか、とバージルは目を画面に戻す。
「『アイオス』……?」
好感度のずば抜けているのがその男だ。
「どんな奴だ?」
「待て。誘い出してみる」
「はあ?」
またもバージルの言っていることが分からず、ダンテは首を傾げた。
ともかく黙って、素早くコントローラを操作する兄と画面を見つめていると……ゲームの中の主人公が、「デートに来てください」などと電話している。どうやらアイオスを呼び出しているようだ。
(すげぇゲームだ……こんなのが遊んでたのか?)
呆気に取られてぼんやりするダンテの前に、主人公に誘い出されたアイオス──のタイプの男──が現れた。
その容姿に、ダンテは息を飲む。
さらりと自慢気になびく銀髪。
「こいつ!!オレそっくりじゃねぇか!?」
嬉々として画面を指差すダンテに、バージルがコントローラをダンテに投げつけた。
「顔なら俺とて同じだろうが。あいつの表情をよく見ろ!」
「は?」
何度見ても、自分そっくりなアイオス。
「……オレ似だろ?」
「愚か者め。そいつの不機嫌そうな顔、貴様というよりこの俺だ」
「な……!表情かよ!」
それなら、とダンテはコントローラのボタンを押してアイオスと主人公の会話を進める。
「これ見ろよ。あんた、こんな大きく口開いて笑うか?オレだろ、どう見ても!」
今度はバージルがコントローラを奪う。
わざと仲違いさせるような選択肢を選び、アイオスを怒らせる。
「この睨み方。俺だ」
「ふざけんな!!」

「もう、二人とも何騒いでるの?」

「「!!!」」
の突然の侵入に、悪魔二人はいつもの彼らに似つかわしくなくびくりと肩を大きく震わせた。
恐る恐るを振り返る。
いけないシーンを見つかってしまいました、ときっぱり言っているようなその姿。
「……ああ!」
パジャマのは、ようやくテレビの画面に気付いた。なぜだかアイオスがこちらに向かってウインクしている。
そのテレビの前には、コントローラを奪い合っているダンテとバージル。
「え……ええ?」
どうして二人がこのゲームを遊んでいるのだろう。
あれはしっかり隠したはず。
というか、これは女の子向けのゲームでは……
「あ、あの……そういうことなら……」
気まずすぎる空気の中を泳ぐように、もたもたとは方向転換する。
二人がそういう趣味だったということは、ないしょにしておいてあげよう。
「ちょ、ちょっと待て!」
ダンテが声を荒げた。
、勘違いすんなよ!これは」
「勘違い?大丈夫、誰にも言わないよ」
理解はありますとうんうん頷き、はそそくさと扉を閉めた。
──残されたのは、メロウな音楽の中でいい雰囲気のアイオスと主人公、そして茫然自失の双子。
こうして、の好みのタイプを探ろう!大作戦は見事に失敗したのだった。
それもに余計な疑惑を植え付けてしまうという、最悪のおまけつきで。



その後、勘の鋭いトリッシュによって双子の計画が暴かれ、二人はにひどく呆れられたという。
……ただし同時に疑惑も氷解したので、それだけは彼らにとって喜べる事態だった。
結局バージルとダンテの捨て身の計画も虚しく、の理想のタイプは謎のままである……。










→ afterword

「ねぇ、トリッシュ。もしかしてアイオスを選んだのって…」
「さすがレディね」
「(最初からあいつらの仕業って分かってたのね…)」
「そう簡単にあの子のタイプをバラすなんてそんなつまらないこと、するわけないでしょう?」
「そうだね…(…ダンテもバージルもご愁傷様)」


60000hitsのお礼として書いたギャグです。

久々なこのゲームシリーズ、みんなキャラが崩壊し…本当にすみません。
次はRPGも書けたらいいなあと企んでます。(懲りなさい!

それでは、アンケートにてこの作品にご意見をくださったお客様(イロモノいっちゃいましたよー!/笑)、ここまでお読みくださったお客様、こんな暴走にお付き合いくださいまして本当にありがとうございました!!
2008.11.4