嵐はいつだって、突然にやってくる。



Love, Hide 'n' Seek Ex




ある、よく晴れた日。
悪魔の片割れが洋館に現れた。
「おぉーい、〜。いるんだろ?」
呑気にポケットに手を突っ込んでのご登場。
タイトなジーンズにラフにTシャツを合わせて、飄々と歩くその姿。
もちろん、ダンテである。
「あ、ダンテ!いらっしゃい!」
重く軋む扉を開けて、彼の想い人が顔を出す。
「どうしたの?突然だね」
にこにこと迎え入れてくれる、その可愛らしい様子にダンテの頬がすっかり弛んだ。
に導かれ、ごく自然に入室する。
……が。
はたと気付いて落ち着かな気にきょろきょろと辺りを見回す。
「バージルいる?」
「いるが。何の用だ?」
ぬっと現れたバージルに、大袈裟にダンテが飛び退く。
「げっ!」
「失礼な奴だな」
バージルが眉を顰める。
こちらはジャケットを適度に着崩したスタイルである。
バージルはどんなときでも、あまりラフすぎる格好を嫌う。
出会い頭から睨み合う、仲のよろしくない双子。

「あー分かった!」

急激に部屋の温度が下がりつつあるのも気付かず、がぽんと手を打った。
双子は思わず彼女を振り返る。
「ダンテ、バイクを取りに来たんでしょ?」
あの放浪の日にバージルが乗って来てからそのまま、返すことなく古城に置かれたままのバイク。
砂場をどれだけ暴走して来たのか、思いっきり汚れていたそれを丁寧に磨いてガソリンまで足したのは、他
でもないである。
「お、よく分かったな!その通りだ」
ダンテがにっこり笑う。
「少し待て。今キーを……」
バージルがあっさりと身を翻す。
今にも弟を追い返しそうな言動を見て取って、が慌てる。
「今すぐ出掛ける用事がないなら、ダンテ、お昼食べて行かない?せっかくだし!」
「食う!!!」
ぱぁっと嬉しそうな笑顔が輝くダンテ。
それと同じつくりながら、思い切り不機嫌なバージルの顔。
「じゃ、座って休んでてね。すぐに用意するから」
が、ぱたぱたとスリッパの音も楽しそうにキッチンへ向かった。
それを見送ってから、ダンテがバージルを振り返る。
その顔に刻まれた、不敵な表情。
「オレさぁ、諦めるのって性に合わねぇんだよな。それがモノでもヒトでも、さ」
バージルの周囲の温度が、氷点下まで下がる。
逆に口端に浮かぶのは、泣く子も黙らせる、極寒の笑み……
「……いいだろう。どうせ結果など、貴様がどう足掻こうとも変わらない」
「へぇ〜。オレ、略奪って得意技なんだよな……」
ダンテもニヤリと切り返す。
午後はどうやら一雨……いや、一嵐来そうだった。



「うめぇ!!!」
ガツガツとの手作りリゾットを食べるダンテ。
「久しぶりにまともなモン食った気がする」
「まさか、毎日宅配ピザじゃないよね?」
が疑念の目を向ける。
彼女がいないとき、ダンテの食生活レベルは極端に下がる。
いい気味だ、とバージルは心密かに思う。
の手料理を食べられるのは、自分だけで充分だ。
「いやあ、毎日ピザじゃねぇけど……でも、買ってきたもんかな」
「身体に悪いよ」
ううんとが腕を組んで何かを思案する。
ダンテの目が一瞬だけ光る。
このとき、バージルは少し嫌な予感がしたという。

「ならさ……俺、ここに引っ越して来てもいいか?」

「え?「いい訳ないだろう!!!」」
の声を掻き消すように、バージルの怒声が轟いた。
「食事くらい自分で何とかしろ、子供か貴様は!!!」
「誰かに作ってもらってる奴の言えた台詞じゃねえよなあ……」
横目ダンテ。
ぐっと詰まるバージル。
「……だが、俺は自分でも作れる!!貴様と一緒にするな!!」
「どうだかね」
バージルがどん!とテーブルを叩く。
ティーポットがちゃぷんと浮いた。
それまで黙っていたが、顎に手を当てる。

「……それもいいかもね……」

「だろー!?「はぁ!?」」
見事にハモる双子。
「何考えてる、!?」
「だって。最近、ここに来る依頼人を捌き切れなくなってるでしょ。あたしが行ってもいいけど」
「二度と依頼には行くなと言っただろう」
バージルが怖い目でを制する。
依頼に出ては散々怪我して帰るに、ついに彼は依頼禁止令を出したのだった。
「でしょお。だったら、ダンテにいてもらえばバッチリじゃない」
「ふむふむ」
ダンテが悪乗りする。
禁止令の手前、バージルは何も言えなくなる。
が、こめかみを震わせながら、何とか切り返す。
「だが……とにかく!俺は反対だ!ここでは俺が主だ!!!」
「うわぁ亭主関白」
「黙れダンテ!!!」
いつの間に抜かれたのやら、閻魔刀が冴える。
「バージル……」
細く漏れた言葉に、バージルがうっと詰まる。
彼の最も苦手とする、の声。
おねだり。
「ダンテが依頼手伝ってくれたら、バージルと一緒にいられる時間ももっと増えるよ、きっと」
「そーそー」
「それに、バージルの帰りをひとりでぽつんと待ってるのだって、すっごく寂しいんだから」
「オレが話し相手になるよ」
合いの手を入れて来るダンテの頭を拳で牽制しておいて、バージルは逡巡する。
「だが……」
がじっ……とバージルを見つめる。

「おねがい。バージル……」

(3……2……1……)
心の中で、勝利へのカウントダウンを始めるダンテ。
(0)
ガクリ、とバージルが肩を落とした。

「……分かった……」

「「やったーーー!!!」」
仲良くハイタッチするとダンテ。
このふたりは、妙に子供っぽいところが気が合うのだ。
「だが、ダンテの部屋は離れの小塔だ!他は許さん!!」
「えー、小塔って……あの遥か遠い?」
示された場所は、今このリビングから直接飛んで向かっても1分はかかる、薄暗い部屋。
遠目に見ても、ぼろ切れのような黒い遮光カーテンや蜘蛛の巣、気味の悪い木々が影を落とす様が見えるその部屋は、まるでお化け屋敷の一室だ。
このダイニングやリビング周辺には、まだ使われていない部屋がごろごろあるというのに……
「まあまあ。今のお家よりは全然近いし」
「……そうだな」
早速、家具がどうこうと引っ越しの算段を始める二人。
それを苦々しげに見ながら、バージルは、今宵どんな代償をから奪おうか、考えていた。