「これはかなりの年代物だな」
ラベルをくるりと見てみれば、それは見事に当たり年のもの。
が奮発して買って来たのだろうか。
彼女はそれほどワインに明るくはなかったはずなのだが。
「……。」
とぷり、とボトルの中でワインが誘いかけるように揺れる。
──はまだ帰って来ないだろう。
「テイスティングも必要だ」
実に都合のいい言い訳を探し当て、バージルはコルクを抜いた。
ふわりと漂う芳醇な香り。
目を閉じて深呼吸すれば、葡萄畑の景色までもが見えるような気さえする。
「……。」
開栓して、香りを堪能して。
これだけで済むとは最初から思っていない。
素早く立ち上がってキッチンからグラスを持って来ると、こぽこぽと紅い高貴な液体を注ぐ。
空気を含ませるように二、三度ワインを揺らし、そしてゆっくりと口に含む。
じわりと舌に滲む、最高級の味わい。
「味も問題ないな」
このワインがあれば、食事は完璧だ。
そっとコルクを戻し、バージルはグラスに残った分を少しずつ楽しんだ。

けれど、もともとグラスに少量しか注がなかったワインは、あっという間に胃へと消えてしまった。
「……。」
未練たらたらで、バージルはボトルを眺める。
もっと飲んで。
ボトルがそんなことを言っているような気さえする。
バージルは、

ボトルの中身を全部空けた。
ボトルをワインクーラーに入れた。